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奇跡のデビュー作『停電の夜に』から4年。ふかぶかと胸に沁みる待望の初長篇!

  • 映画化その名にちなんで(2007年12月公開)

その名にちなんで

ジュンパ・ラヒリ/著 、小川高義/訳

2,420円(税込)

本の仕様

発売日:2004/07/30

読み仮名 ソノナニチナンデ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 350ページ
ISBN 978-4-10-590040-3
C-CODE 0397
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,420円

若き日の父が辛くも死を免れたとき手にしていた本にちなんで、「ゴーゴリ」と名づけられた少年。万感の思いがこめられた名を、やがて彼は恥じるようになる。生家を離れ、名門大学に進み、改名。新しい人として生きる晴れ晴れとした自由さと、ふいに胸を突く痛みと哀しみ。名手ラヒリが精緻に描く人生の機微。深く軽やかな傑作長篇。

著者プロフィール

ジュンパ・ラヒリ Lahiri,Jhumpa

1967年、ロンドン生まれ。両親ともカルカッタ出身のベンガル人。2歳で渡米。大学、大学院を経て、1999年「病気の通訳」でO・ヘンリー賞、同作収録の『停電の夜に』でピュリツァー賞、PEN/ヘミングウェイ賞、ニューヨーカー新人賞ほか受賞。2003年、長篇小説『その名にちなんで』発表。2008年刊行の『見知らぬ場所』でフランク・オコナー国際短篇賞を受賞。2013年、長篇小説『低地』を発表。家族とともにイタリアに移住し、2015年、イタリア語によるエッセイ『ベつの言葉で』を発表。『わたしのいるところ』は初のイタリア語による長篇小説。

小川高義 オガワ・タカヨシ

1956年、神奈川県生まれ。東京工業大学名誉教授。翻訳家。ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』『その名にちなんで』『見知らぬ場所』『低地』、ジョン・アーヴィング『また会う日まで』、トム・ハンクス『変わったタイプ』など訳書多数。著書に『翻訳の秘密』。

書評

波 2004年8月号より 「聖ゴーゴリ」  ジュンパ・ラヒリ『その名にちなんで』

久世光彦

 長い、長い短篇小説である。と言うと奇異に思われるだろうが、「その名にちなんで」は作者初の長篇でありながら、とても精緻にできた短篇なのだ。ページ数も多いし、物語の背後に流れる時間も、一九六八年から二○○○年までだから、大河とまでは言わないが、かなりなものだ。作者のジュンパ・ラヒリは、九九年にはじめて世に出した短篇集「停電の夜に」で、ピュリツァー賞とヘミングウェイ賞と、その上、O・ヘンリー賞まで受賞したという。他の二つの賞のキャラクターについてはよく知らないが、この作者の資質にいちばん近いのは、間違いなく短篇の名手、O・ヘンリーである。
「その名にちなんで」は、ベンガル人の父母の間に生れ、アメリカで暮らすことが決まっているのに〈ゴーゴリ〉という妙な名前を付けられた男の、三十年の日々を書いた小説だが、半生記というのも似合わないし、グロウイング・ストーリーとも言えない。簡単に言えば、こんな不思議な名前を持った男は、どんな風に育ち、どういう女を遍歴し、何を考えて暮らすだろう――というだけの話なのだ。歳月だの、それに伴う人生の機微だのと能書きを並べないで、たったそれだけであるところが、私は素晴らしいと思う。これは紛れもない短篇の発想である。〈ゴーゴリ〉という、時代ずれして滑稽な一つの人名の中に、発端から結末までが、ほぼ完全な形で見えてしまう。着想の妙であり、ラヒリがこれを思いついた瞬間に「その名にちなんで」の成功は約束された。
ニコライ・ゴーゴリは十九世紀のロシアの作家で、「外套」「鼻」などという垢抜けない小説を書いたが、二十世紀のはじめには社会小説としてずいぶん広く読まれたものだ。中学生だった私が読んだゴーゴリは、確か神西清訳だった。ゴーゴリの少し後にゴーリキーというのもいて、ロシアは暗いと私は思った。――「その名にちなんで」のゴーゴリは、父親が若いころ列車事故に遭って危うく死にかけたとき、偶々読んでいたのが「外套」で、命が助かった代りに、手の中の本はボロボロに千切れ、血に塗れた。つまり、身代りになってくれたゴーゴリに因んで、父のアショケ・ガングリーは息子にその名を付けたというわけだ。
わかり易い。大真面目な父親と、迷惑そうな倅の顔が見えるようだ。一九六八年生れのゴーゴリ、しかもインド系――ユーモアのセンスがなかなかいい。作者のラヒリもまた、六七年に生れ、カルカッタ出身の両親と、幼いころアメリカに渡ったという。だから育った時代や環境は、自伝的とも言えよう。だが、この小説の〈いい場面〉は父と息子のエピソードに多い。命名の由来を息子に語って聞かせるところや、連れ立って海岸を散歩するシーン、そして父の死後、遺品の中から現れた「ゴーゴリ短篇集」の表紙の内側に、父の筆跡で記された息子の名前〈ゴーゴリ〉――それは、風の中の聖者の名前のようだ。
風――それは短篇小説に欠かせないものだ。物語の中で年月が過ぎ、季節は移ろうが、この小説にはどのページにも小さな風が吹いている。決して重くなく、決して湿ってもいない。だから涙はすぐに乾くし、いつだって羊雲の向うには薄日が射している。――この作家には、ヘミングウェイでもなく、ピュリツァーでもなく、O・ヘンリーこそよく似合うという所以である。――大久保康雄の訳で、O・ヘンリーの「最後の一葉」や「賢者の贈り物」を読んだ昔を思い出す。私はそれらの中に、ペシミスティックな残響など聞いたことがなかった。私が聞いたのは、風の音だった。そう――あのころは、私の周りにも風が吹いていた。
写真で見ると、ジュンパ・ラヒリは聡明そうな美女である。しかもまだ三十代らしい。――もっと早く、この人に逢いたかった。

(くぜ・てるひこ 作家・演出家)

短評

▼Horie Toshiyuki 堀江敏幸
アメリカに暮らすインド系移民の若い夫婦が、異国で生まれた息子に、夫の生涯の分岐点となった出来事にちなんで、「ゴーゴリ」という名を与えた。このごつごつした名前の外套の下から、溜息が出るほど丁寧に染めあげられた人生の更紗が少しずつ姿を見せる。なんということだろう。ラヒリの世界はもう完成の域に達し、あとはただ、その成熟を見守っていけばいいとばかり思っていたのに、本書を通して、彼女は予想を超える深化を遂げていたのだ――驚くほど静かに、驚くほど自然に。

▼Michiko Kakutani ミチコ・カクタニ[ニューヨーク・タイムズ]
『停電の夜に』は心に残る室内楽のようだったが、この長篇では、異国で生きることというテーマが交響曲として鳴り響いている。

▼Globe and Mail グローブ・アンド・メール
読み終わってみれば、二つの世代と二つの大陸にまたがる人生が、もののみごとに描きだされていたことに気づく。

▼Houston Chronicle ヒューストン・クロニクル
さりげない日常に向けられる観察眼がすばらしい。姿かたちをわかりやすく描写したなかにも、言わく言いがたい思いのたけが盛り込まれている。

▼Sydney Morning Herald シドニー・モーニング・ヘラルド
本を読むという単純にして尽きせぬ喜びを再燃させてくれた。

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