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新潮文庫メールマガジン アーカイブス


『死刑にいたる病』『鵜頭川村事件』『殺人依存症』といった、社会病理、犯罪心理を巧みに描き、手に汗握るサスペンスを数多く発表しつづける櫛木理宇氏。書き下ろしの最新刊文庫は、人口の流動性の低い田舎町で起きた昭和末期の誘拐事件から始まります。
 美しく利発な少女・サチはある日男に誘拐され、そこから11年間監禁されてしまう。ようやく生還出来た彼女を待ち受けていたのは、旧弊な価値観のまま変化のない住人達による嫌がらせや、無理解だった。疲弊しきる彼女の元に「この骨がホンモノ」だと白骨死体が送りつけられる──。
 この死体は誰のものなのか。犯人は。悪意の連鎖の根幹には何があるのか......。一度読み始めたら、結末を知るまでは本のページを閉じられない、衝撃の読書体験が待ち受ける。画家・諏訪敦氏の美しく印象的なカバー裝画にも注目です。

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2025年09月15日   今月の1冊


 年末ともなると、各社アンケートによる海外ミステリーのベスト10発表が待ち遠しくなります。そんななか、台風の目となりそうなのが、英国作家マシュー・ブレイクのデビュー作『眠れるアンナ・О』です。
 ある夜、25歳の雑誌編集長アンナは、雑誌社を共同で経営していた同僚2人が刺殺された現場近くで、ナイフを手にしたまま深い睡眠に陥った状態で発見されます。以来四年ものあいだ彼女は昏睡状態のままで、タブロイド紙に "眠り姫"と呼ばれていました。アンナの症状は、神経学者には「あきらめ症候群」として知られる珍しい精神疾患。彼女を目覚めさせる治療を引き受けることになったのが、心理学者で、睡眠が関わる犯罪の専門家ベンで、治療を通じてベンは徐々にアンナに同情的になっていくのでした。やがて過去に起きた同様の睡眠殺人事件との関連が判明し、当時の容疑者の子どもである患者Xの存在も明らかになるに及んで、事件は思いもかけない方向へと転がり落ちて――。
 アガサ・クリスティーを愛してやまない著者が、睡眠時殺人という最新のテーマで挑んだ謎また謎の展開は素晴らしく、まさにミステリー界の新たな才能の誕生と言っていいでしょう。さらに、"ファクション"の手法はトルーマン・カポーティ『冷血』を思わせ、二転三転するストーリーの果てに待ち受けるのは、一気に覆される驚異のクライマックス! 全英の話題をさらった超弩級のデビュー作をぜひとも手に取って、騙しに騙される快感を味わってください。

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2025年08月15日   今月の1冊


 人生にはうまくいかない時期があります。例えば恋人とうまくいかなかったり、仕事で大失敗をしてしまったり。そんな時に、ぜひ手に取ってください。
『居るのはつらいよ』で大佛次郎論壇賞を受賞した臨床心理士の東畑開人さんが、大学を辞めて、独立した際に初めて書いたのが本書です。東畑さん自身が「うまくやっていけるのだろうか」とおびえ苦しんだ日々から生まれたこのエッセイは、私たちの心に柔らかく寄り添います。いつまでも終わりの来ない負け戦に挑んでいるような気分になる時もあるでしょう。でも、私たちは決して「独り」ではないのです。必ず、同じような悩みを皆抱えているから。
 東畑さんが実際のカウンセリングで接した患者さんの具体事例をあげながら、どうしたら現状を乗り越えられるのかを優しくアドバイス。読めば心が穏やかになり、明日に立ち向かう勇気が沸いてくる一冊です。

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2025年08月15日   今月の1冊


『BUTTER』がイギリスで3つの賞に輝き、世界的大ヒットを記録している柚木麻子さん。柚木さんが母校・恵泉女学園の創設者・河井かわいみちを描いた『らんたん』が発売されました。構想5年、長い間あたため続けてきたテーマが結実した長編小説です。

 現在は世田谷区に位置する恵泉女学園は、1929年に教育家・河井道によって牛込神楽町に創設されました。中高時代を恵泉女学園で過ごした柚木麻子さんは、母校の関係者に取材し、残された資料を丹念に読み込み、河井道や渡辺ゆりが女子教育の黎明期を築く歩みを長編小説として描きました。
 道やゆりだけではなく、本作には女子の教育の歴史を彩るさまざまなスターが登場します。女子英学塾(のちの津田塾大学)を創設した津田梅子と、彼女とともにアメリカに留学した大山捨松。東洋英和女学校を卒業し『赤毛のアン』の翻訳者として知られる村岡花子と、「白蓮」として世を騒然とさせた柳原アキ子。それぞれがあたたかな友情で結ばれながらも、進む道が分かれてしまうことも――。時に微笑ましく、時に切ないシスターフッドに胸うたれること間違いなしです。
 巻末の解説は『アンのゆりかご―村岡花子の生涯―』などの著作で知られる村岡恵理さん。本作に登場する村岡花子さんのお孫さんでもある恵理さんによる素晴らしい解説は必読です。

 道やゆりをはじめとした多くの女性たちの奮闘があったからこそ、女性が教育を受けられる「いま」がある。教育という希望の灯をともし、それを絶やさぬように努め続けた女性たちの物語をぜひお読みください。

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2025年08月15日   今月の1冊


「ナルニア国物語」シリーズの最初の1冊『ライオンと魔女』がイギリスで刊行されたのは1950年のことでした。それから75年、その人気は衰えることなく、今もなお児童文学史に燦然と輝きます。
 世界47カ国で翻訳、1億2千万部の売上を誇るファンタジーの金字塔――。
 しかし、このあまりに有名な物語のラストを、みなさんはご存じでしょうか。

「なるほど。これはおもしろい冒険小説だ。娘のクリスマスプレゼントにでもしようか」
 1巻『ライオンと魔女』を読んだ人はきっとそう頷くことでしょう。衣装だんすの先に広がる別世界を夢みることのできる、子どものための物語。仲間、友情、勇気、信念、出会いと別れ、諦めない心......まさに子どもが大きくなるために必要なものがすべて詰まっている王道の児童文学です。
 しかしその印象は、2巻『カスピアン王子と魔法の角笛』、3巻『夜明けのぼうけん号の航海』と巻を追うほどに変わってゆきます。
 自分の夢を諦め国民のために王冠をかぶる王子。そんな少年王の前に広がる茨の人生。そして、明るい未来を夢見るばかりではなく現実の厳しさを直視しろと諫める仲間......。
 そして、最終巻『さいごの戦い』を読み終えたとき――。
 そこには、「子どものための冒険小説」という言葉には到底おさまらない壮大な世界が広がります。
 実は、『さいごの戦い』は、発表当時、英文学会で論争を巻き起こした「問題作」でもありました。「子どもにこそ真理を語るべき」と考えていた著者C・S・ルイスと、「子どもには空想や夢だけを与えるべき」という当時の論調は真っ向から対立します。
 それでも、『さいごの戦い』はイギリスで最も権威ある児童文学賞であるカーネギー賞を受賞し、今では『指輪物語』『ゲド戦記』とともに「世界三大ファンタジー」の一角を担うまでになりました。

 来年2026年にはNetflixでの新作映画の配信も決定している本シリーズ。衣装だんすから始まった小さなルーシーの冒険は、この最終章を読んでこそ完結します。
 どうぞ、ナルニアへのさいごの旅をお楽しみください!

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2025年07月15日   今月の1冊