年末ともなると、各社アンケートによる海外ミステリーのベスト10発表が待ち遠しくなります。そんななか、台風の目となりそうなのが、英国作家マシュー・ブレイクのデビュー作『眠れるアンナ・О』です。
ある夜、25歳の雑誌編集長アンナは、雑誌社を共同で経営していた同僚2人が刺殺された現場近くで、ナイフを手にしたまま深い睡眠に陥った状態で発見されます。以来四年ものあいだ彼女は昏睡状態のままで、タブロイド紙に "眠り姫"と呼ばれていました。アンナの症状は、神経学者には「あきらめ症候群」として知られる珍しい精神疾患。彼女を目覚めさせる治療を引き受けることになったのが、心理学者で、睡眠が関わる犯罪の専門家ベンで、治療を通じてベンは徐々にアンナに同情的になっていくのでした。やがて過去に起きた同様の睡眠殺人事件との関連が判明し、当時の容疑者の子どもである患者Xの存在も明らかになるに及んで、事件は思いもかけない方向へと転がり落ちて――。
アガサ・クリスティーを愛してやまない著者が、睡眠時殺人という最新のテーマで挑んだ謎また謎の展開は素晴らしく、まさにミステリー界の新たな才能の誕生と言っていいでしょう。さらに、"ファクション"の手法はトルーマン・カポーティ『冷血』を思わせ、二転三転するストーリーの果てに待ち受けるのは、一気に覆される驚異のクライマックス! 全英の話題をさらった超弩級のデビュー作をぜひとも手に取って、騙しに騙される快感を味わってください。
人生にはうまくいかない時期があります。例えば恋人とうまくいかなかったり、仕事で大失敗をしてしまったり。そんな時に、ぜひ手に取ってください。
『居るのはつらいよ』で大佛次郎論壇賞を受賞した臨床心理士の東畑開人さんが、大学を辞めて、独立した際に初めて書いたのが本書です。東畑さん自身が「うまくやっていけるのだろうか」とおびえ苦しんだ日々から生まれたこのエッセイは、私たちの心に柔らかく寄り添います。いつまでも終わりの来ない負け戦に挑んでいるような気分になる時もあるでしょう。でも、私たちは決して「独り」ではないのです。必ず、同じような悩みを皆抱えているから。
東畑さんが実際のカウンセリングで接した患者さんの具体事例をあげながら、どうしたら現状を乗り越えられるのかを優しくアドバイス。読めば心が穏やかになり、明日に立ち向かう勇気が沸いてくる一冊です。
「ナルニア国物語」シリーズの最初の1冊『ライオンと魔女』がイギリスで刊行されたのは1950年のことでした。それから75年、その人気は衰えることなく、今もなお児童文学史に燦然と輝きます。
世界47カ国で翻訳、1億2千万部の売上を誇るファンタジーの金字塔――。
しかし、このあまりに有名な物語のラストを、みなさんはご存じでしょうか。
「なるほど。これはおもしろい冒険小説だ。娘のクリスマスプレゼントにでもしようか」
1巻『ライオンと魔女』を読んだ人はきっとそう頷くことでしょう。衣装だんすの先に広がる別世界を夢みることのできる、子どものための物語。仲間、友情、勇気、信念、出会いと別れ、諦めない心......まさに子どもが大きくなるために必要なものがすべて詰まっている王道の児童文学です。
しかしその印象は、2巻『カスピアン王子と魔法の角笛』、3巻『夜明けのぼうけん号の航海』と巻を追うほどに変わってゆきます。
自分の夢を諦め国民のために王冠をかぶる王子。そんな少年王の前に広がる茨の人生。そして、明るい未来を夢見るばかりではなく現実の厳しさを直視しろと諫める仲間......。
そして、最終巻『さいごの戦い』を読み終えたとき――。
そこには、「子どものための冒険小説」という言葉には到底おさまらない壮大な世界が広がります。
実は、『さいごの戦い』は、発表当時、英文学会で論争を巻き起こした「問題作」でもありました。「子どもにこそ真理を語るべき」と考えていた著者C・S・ルイスと、「子どもには空想や夢だけを与えるべき」という当時の論調は真っ向から対立します。
それでも、『さいごの戦い』はイギリスで最も権威ある児童文学賞であるカーネギー賞を受賞し、今では『指輪物語』『ゲド戦記』とともに「世界三大ファンタジー」の一角を担うまでになりました。
来年2026年にはNetflixでの新作映画の配信も決定している本シリーズ。衣装だんすから始まった小さなルーシーの冒険は、この最終章を読んでこそ完結します。
どうぞ、ナルニアへのさいごの旅をお楽しみください!
シリーズ累計1000万部突破の『しゃばけ』が、今年秋から、全国フジテレビ系の"ノイタミナ"でテレビアニメ化します。それを記念し、シリーズ第22弾となる文庫最新刊『いつまで』が、6月25日に発売されました。毎年「冬の恒例行事」となっている「しゃばけ」シリーズ文庫最新刊の発売ですが、この夏は特別に、妖たちが最新刊とともに「涼」をお届けいたします。
今作『いつまで』は17年ぶりとなる長編作品です。若だんなが、とらわれた妖たちを救い出しに向かうと......そこはなんと5年後の江戸でした。しかも、長崎屋は史上最大の危機に。若だんなは、お店の、そして妖たちを助けることができるのでしょうか?
今作の文庫解説を執筆してくれたのは、アニメ「しゃばけ」で脚本を担当した待田堂子さん。『しゃばけ』の大ファンでもあるという待田さんは、シリーズを通しての若だんなの成長について「まるで親戚の叔母のように見守る楽しさがある」と書いています。そして、アニメ脚本の執筆を通して気がついたシリーズの魅力、最新作『いつまで』の読みどころについて掘り下げてくれました。
ちなみに今年は夏の発売ですので、新潮社の文庫フェア「新潮文庫の100冊」の1冊として、全国の書店さんの夏を盛り上げています。また、シリーズ第一作『しゃばけ』については、アニメ特別カバーバージョンが登場。こちらもぜひチェックしてみてください。
そして、恒例となっている読者プレゼントには、夏らしい逸品をご用意しました。今年も猛暑による熱中症の危険性が高まっています。熱中症予防にはこまめな水分補給が欠かせませんが、そんなときにぴったりなのが今回のプレゼント「しゃばけ特製ポケットサーモボトル」です。シリーズイラストを担当している柴田ゆうさんが描いた鳴家がプリントされた、ここでしか手に入らない超限定品。ぜひ鳴家たちとともに、暑い夏を乗り切っていただけたら幸いです。
「ぼぎわん」(刊行時『ぼぎわんが、来る』に改題)で、第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智さん。その後、2017年に『ずうのめ人形』が第30回山本周五郎賞候補に選出。2019年には「学校は死の匂い」で第72回日本推理作家協会賞短編部門を、2020年に『ファミリーランド』で第19回センス・オブ・ジェンダー賞特別賞を受賞しました。
そして、この度、"小説"ならではの技巧をこらした大どんでん返し恐怖短編集『怪談小説という名の小説怪談』が新潮文庫より発売されます。
デビュー以来、ホラー小説界の最前線に立ち、ホラーブームを牽引してきた澤村伊智さん。本書では、「怪談会」、「学校の怪談」、「呪いの物件」、「恐怖小説」など、古今紡がれてきた怪談の数々を著者流にアップデートしつつ、インターネットで何でも検索できる現代を逆手に取った、新しい形の怪談も生み出しました。
謎めいた語りが恐怖と驚愕を生み、奇妙で不穏な空気と意外な結末に嫌な汗が滲みだす、大どんでん返し恐怖短編集!
著者ならではの技巧により、想像力を軽々と飛び越えてくる一冊を是非お楽しみください。大森望さんによる「解説」ならぬ「怪説」にも注目です!
































