新潮文庫メールマガジン アーカイブス
今月の1冊


 会議が終わって、一つ上の先輩がコーヒーカップを片付け始めています。
 あなたが新人だったらどうするでしょうか。
 おそらく、先輩を手伝い、次からは自分が率先して片付けることでしょう。
 ところが、この行動を起こせない人がいるのです。「気が利かない人ね」という簡単な話ではありません。
 このときに「ねえ、(手伝うのは当たり前なのに)どうしてしないの?」と責めると「誰も教えてくれなかったので」とか「誰も僕にやれって言いませんでしたよね?」とか言い返してきます。上司と部下の関係は平行線を辿り、双方つらい思いをすることになります。
 この部下は、人が当たり前のようにやっていることをうまく認知できない「共感障害」の持ち主なのです。これは脳のトラブルであり、能力の優劣の問題ではありません。ですから、「話、聞いてるの?」「やる気あるの?」「どうして、やらないの?」は禁句。本人にしてみればやる気があるから会社に来ているわけで、気の弱いタイプだったらハラスメントを受けていると思い込むことになります。実際、「誰も私に仕事を教えてくれないのに、気が利かない、なぜやらないと叱られるんです。これってパワハラですよね」と泣きながら人事に訴えてきたケースもあります。
 問題は職場だけではありません。自分の子供が、或いは夫や妻が共感障害を呈している場合もあります。共感障害でなくとも相手の意図を読み間違える事が多いのに、加えて共感障害となると「夫(子供)の気持ちがわからない」「妻(親)にわかってもらえない」と途方にくれることになります。
 でも大丈夫。〈トリセツ〉シリーズの黒川伊保子さんが、「話の通じない人」とどう会話を続けていくか、理解を深めるか、具体的に指南します。悩んでいるのはあなただけではありません。必ず心が軽くなります。

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2022年03月15日   今月の1冊


 ある日、実家にあなたを名乗る何者かが窮状を訴える電話を掛けてきた。見知らぬ番号の電話に出たところ、いきなり怪しげな投資話を持ちかけられた。
 ――そのようなご経験がある方も多いと思います。古来より、たくみな話術で人を騙し、金品や不動産を奪い取る詐欺が絶えたことはありません。

 次々と話題作を世に送り出し続け、昨年上梓した『機龍警察 白骨街道』も高く評価された月村了衛さんが長編のテーマとして選んだのは、詐欺。
 巨大詐欺集団・横田商事に在籍した過去を封印し、ひっそり生きてきたサラリーマン、隠岐隆。ある日、彼はその"亡霊"因幡充に足首を捕らえられ、嫌々ながら再び修羅の世界に戻ってゆく。だが、隠岐には、秘められた詐欺の大才があったのです。
 隠岐と彼をこの世界へと引き込んだ男、因幡。ふたりの詐欺師が金銭と権力を得て成り上がってゆく様を中心に据えながら、この作品をさらに豊かなものにしているのは、個性的な登場人物たちです。余命幾ばくもない小役人。強面ながら経済に強いヤクザ。国士気取りの投資家。どうにも信用できない部下。蔦のように隠岐に絡みつく、ある女......。
 山田風太郎賞受賞の犯罪巨編『欺す衆生』。騙されたと思って、頁を開いてみてください。予測不能のラストがあなたを待っています。

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2022年03月15日   今月の1冊


 カレーを一晩置くと、なぜおいしくなるのか? 答えは、カレーに使われている、ある食材に隠されていました。あっと驚く、その食材の正体とは!?
 本書では、カレーや寿司、お好み焼き、そば、フルーツパフェなどさまざまなメニューに隠された秘密を、食材を手がかりに解き明かしていきます。子どもたちはなぜピーマンが嫌いなのか? どうしてタマネギは加熱すると甘くなるのか? そばが栄養豊富な理由とは? 味、食感、香り、栄養素......すべての謎を解く鍵は、「食材が生きていたときの姿」にありました。
 食材の秘密を知ることは、料理の上達にもつながります。ジャガイモを煮崩れさせない方法、タマネギを泣かずに切る技術、ダイコンおろしの辛さを調節する裏技、そして子どもたちがピーマンを喜んで食べるようになる調理法など、今日から試したくなる料理の驚き技も満載です。毎日の調理と食事がグンと楽しくなることまちがいありません。
 著者の稲垣栄洋先生(静岡大学大学院教授)は、雑草や生き物の専門家。ベストセラー『生き物の死にざま』でお名前を見た記憶のある方も多いのではないでしょうか。稲垣先生のわかりやすく、おもしろい説明を読んでいると「ねえねえ、これ知ってる?」とつい誰かに話したくなってしまいます。また、そんな文章が人気を集め、国・私立中学の入試問題(国語)では、毎年なんらかの作品が使われ、5年連続で「もっともよく出題された作者」となっています。この本からも、来年2023年入試に出題されるかも?

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2022年02月15日   今月の1冊


『三千円の使い方』が大ヒット中の原田ひ香さんの最新作『そのマンション、終の住処でいいですか?』は、とあるマンションが舞台。有名デザイナーが都内の一等地に建てたそのマンションは、これまで真面目に生きてきたとある家族にとってはご褒美のような終の住処になるはずだった。しかし、蓋を開けてみると――。
 欠陥住宅だとわかっていながらも、有名デザイナーが手がけたというバリューを捨てられない人たち、有名デザイナーの天才ぶりに振り回された人たち、その家族、その師弟。増えていく登場人物たちの思惑は千々に絡まり合う。
「マンションを建て直す」ということがどうしてこんなにもままならないのか。
 読む人誰もが身につまされるであろう、マンション問題あるあるがぎっちり詰まったエンターテイメント小説の登場です。

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2022年02月15日   今月の1冊


 2021年に『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞し話題となった町田そのこさんですが、著者唯一のシリーズ作品であり、累計15万部突破の人気作『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』の第二巻が、このたび発売されました。
 このシリーズは北九州門司港にある小さなコンビニ「テンダネス門司港こがね村店」の店長・志波三彦(老若男女を意図せず魅了してしまう魔性のフェロモンを持つ)の元にやってくる、輪をかけて個性的な常連客たちとのやりとりがたいへん魅力的です。
 が、今回のテーマはなんと「恋」。
 一体誰の元に恋物語が舞い降りるのか。前作からお読みの方はにやりとなること間違いなしです。
 各話に出てくる登場人物達の心の動きはどれもリアリティに溢れ、思わず泣かされたり、くすりと笑えたり、何より「頑張ろう」と背中を押されるような素敵な物語集となりました。ラストにはかなり気になる人物も登場し、ますます目が離せません。著者の門司港愛に溢れた心温まる物語を是非ご堪能ください。

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2022年01月15日   今月の1冊