新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

モヤモヤの話

 編集部で定期購読している新聞や雑誌を読んでいて、あるいはテレビやラジオのニュースに接していて、よくわからなくなることがあります。本来は情報を吸収することで、わけがわかるようになるべきなのでしょうが、逆なのです。
「日本の借金は全然問題なし。家計と国の借金は別物だから」と言う人もいれば「そんなわけないだろ。このままだと大変だぞ」と言う人もいます。
 そのへんどうなのか、国会で議論してほしいのですが、そこでもあまりわけがわかるような話にはなりません。
 結局、日本は大丈夫なのか。そうじゃないのか。どのくらい大丈夫なのか。
 こういう話は本来、データなどをもとに冷静に話し合えばいいと思うのですが、どうも別の政治的スタンス(右か左かとか)が絡むので、ややこしいうえに、なんだかバイアスがかかっている感じもします。そんなわけで、わけがわからずモヤモヤしたままになるのです。

 6月新刊『逃げられない世代―日本型「先送り」システムの限界―』(宇佐美典也・著)は、そういうモヤモヤを一掃してくれる快著です。
 著者は冷静かつ明快に日本の財政、行政が抱える問題の本質を説明していきます。国の借金は大丈夫なのか。年金はどうなるのか。国会でまともな議論が行なわれないのはなぜか。
 この1冊で、現在の日本が抱える問題を網羅的に解説できていると言っても過言ではないと思います。

 他の新刊3点もご紹介します。

警察官白書』(古野まほろ・著)は、昨年好評を博した『警察手帳』の続編的な「警察入門」。といっても、前作を読んでいなくても十分楽しめます。
 警察官は人のどこを見ているか? 年収や学歴は?
 生活安全、刑事、交通、警備等、専門によって仕事方法や思考パターンが違う、といった指摘は警察庁キャリアという経歴の著者ならではでしょう。

本当はダメなアメリカ農業』(菅正治・著)は、これまでのアメリカ農業の見方が一変するレポート。TPP交渉の頃には、やたらと「アメリカ農業脅威論」的な言説が目立ちましたが、実際にはボロボロだ、というのです。輸出はひとり負け、農家は人手不足と高齢化でアップアップしていて、環境も破壊される一方......日本農業にも勝ち目は十分ある気がしてきました。

トヨタ 現場の「オヤジ」たち』(野地秩嘉・著)は、「こんな人がいたのか」という驚きを保証するノンフィクション。中学卒業後、現場一筋に働いたたたき上げの副社長が、トヨタにはいます。その人物を中心に、現場から見た「トヨタ生産方式」の真実と、人の育て方を描いた感動的なビジネス・ノンフィクションです。

『逃げられない世代―日本型「先送り」システムの限界―』の著者、宇佐美さんは元経産省キャリア。その明晰な分析を読むほどに、やはりキャリアには優秀な人材がいるのだなあと思い、そのあとにテレビで現役のキャリアの方々の会見などを見ると、そうでもないのかなあとも感じる。そんなモヤモヤだけは依然として残るのでした。

 6月も新潮新書をよろしくお願いします。

2018/06