新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

おっさんの話

 10代の頃から好きな曲で「金持ちこそ孤独な生活を送っている、とかよく言われるんだけど、そんなこと言ったら貧乏人はどうすりゃいいんだよ」といった歌いだしで始まるものがあります(意訳)。
 西野ジャパンが「おっさんジャパン」と揶揄されているときに、「あの若さでおっさんとか言われるんなら、俺たちはどうすればいいんだよ」と思ったのは私だけではないでしょう。
 新潮社では30代は十分若手扱いですし、多分40代にも自分は若手だと思っている人は結構いるはず。
 さらに政界では50代でも若手扱いされることは珍しくありません。
 7月新刊の『政策至上主義』の著者、石破茂氏は現在61歳。企業ならば定年でもおかしくありませんが、政界ではまだ終わった人扱いは受けておらず、常に「次の総理候補」として名前が挙がる存在です。
 この新著では、石破氏は自身のキャリアや政治信条を語りながら、同時に現在の政治、社会への有権者が抱えている不満やモヤモヤについて、丁寧に真摯に向き合って説明をしています。
「誠実さ、謙虚さ、正直さを忘れてはならない」
「丁寧に説明すれば国民は理解してくれる」
「国会で本質的な議論をするためには与党の努力が必要である」
「何よりも磨くべきは政策である」
 と並ぶ章題を見るだけで、「そうなんだよね」と共感する方もいるのではないかと思います。

 他の3点もご紹介します。

人生に信念はいらない―考える禅入門―』(細川晋輔・著)は、若き禅僧による新しいタイプの禅入門。「禅」というと多くの人が連想するのが「公案」、いわゆる禅問答でしょう。千を越える公案に取り組んだという凄い経験の持ち主である著者が、自身の辿った道を振り返りながら禅の本質をわかりやすく、そして時に感動的に説きます。

死と生』(佐伯啓思・著)は、現代を代表する知性が、人間究極の謎に取り組んだ1冊。「死んだらどうなるのか」「静かに死ぬにはどうすればいいのか」「そもそも人間にとって死とはなにか」等々、誰もが一度はぶつかったことがある謎について、古今の思想などもひもときながら考えていきます。じっくりと物を考えたい方に特にお勧めします。

悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト―パガニーニ伝―』(浦久俊彦・著)は、読後、あるいは読みながら必ずYoutubeで「パガニーニ」と打ち込みたくなる評伝。天才ヴァイオリニストにして作曲家のパガニーニの本邦初の本格評伝......というとクラシックファン以外は敬遠しがちですが、読み物として抜群に面白い内容です。私はパガニーニの曲と言われても1曲も頭に浮かびませんでしたが、読み始めたらそのキャラクターの面白さに引きこまれ、ついついパソコンで曲を聴きながら最後まで一気に読んでしまいました。

 冒頭の曲のタイトルは「I'm not down」(The Clash)。四捨五入するとアラサーすらいなくなってしまった編集部(おっさんだけではありません)が、毎月何とか頑張って新刊をつくっています。

 今月も新潮新書をよろしくお願いします。
2018/07