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今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

なんでだろうの話

 テツ&トモのネタのように、「言われてみるとなんでだろう」ということがあります。
 6月新刊の『ベストセラー伝説』(本橋信宏・著)で扱っている「科学」と「学習」についての謎は、私にとってはまさにそれでした。
 世代によってまったく認知度が異なるのですが、かつて学習研究社(当時)が小学生向けに発売していた雑誌が「科学」と「学習」の2誌です。何が「言われてみると......」なのかといえば、「なんであの雑誌は堂々と学校内で販売していたんだろう」ということ。ご存じない世代の方のために補足すれば、この2誌だけはなぜか毎月校内に誰かが売りに来ていたのです。子供の頃は「そんなもんか」と思っていたのですが、よく考えれば公立学校が一社にのみ便宜をはかっていたのは明らかにおかしい。
 同書によれば、これは版元の巧みな販売戦略によるものでした。簡単にカラクリを言えば、戦後、公職追放になっていた元校長さんたちを現地で販売部長として雇っていた、ということになります。学校には彼らに頭が上らない元部下やら後輩がいるので、大胆なセールスが出来たというのです。もちろん、これとて現代では問題視される行為ですが、そこは大らかな昭和の時代ならでは、というところでしょう。
 他にも「平凡パンチ」『ノストラダムスの大予言』等、懐かしいベストセラーの知られざるエピソード満載なので、本好き、特に昭和生まれの方にはお勧めします。

 他の新刊3点も「なんでだろう」に答えてくれます。

 新宿2丁目は、ゲイバーが数多くあり、LGBTの聖地とされています。でも、なんでそうなったのか? 『新宿二丁目』(伏見憲明・著)は、膨大な文献と貴重な証言をもとに答えを出しています。
フィンランドの教育はなぜ世界一なのか』(岩竹美加子・著)は、タイトルの通り。テストも偏差値教育もないのに、学力調査では常に世界上位に入るのはなぜなのか。現地で実際に子育てをした母親でもある著者が、体験もまじえて解説します。
 そして、『バッシング論』(先崎彰容・著)のオビにはこうあります。「日本人はなぜかくも余裕を失ったのか」――日々のニュースやネット、あるいは過剰にナーバスな人たちを見てこんな疑問を抱いていた方もおられるのではないかと思います。
 その答えを著者は現実の出来事を題材に導いていきます。知的興奮に満ちた評論です。

 いずれも読めば疑問が氷解する本ばかりです。
 今月も新潮新書をよろしくお願いします。
2019/06