今月の表紙の筆蹟は、筒井康隆さんと蓮實重彦さん。
波 2023年1月号
(毎月27日発売)
発売日 | 2022/12/27 |
---|---|
JANコード | 4910068230133 |
定価 | 100円(税込) |
阿川佐和子/やっぱり残るは食欲 第64回
【筒井康隆、蓮實重彦『笑犬楼vs.偽伯爵』刊行!】
川上弘美/滋味
【阿刀田 高『小説作法の奥義』刊行記念】
[インタビュー]阿刀田 高/小説は小さなコツでできている
【宮下洋一『死刑のある国で生きる』刊行記念】
[対談]宮下洋一×田原総一朗/日本に死刑は本当に必要なのか
【ふかわりょう『ひとりで生きると決めたんだ』刊行記念】
[対談]ふかわりょう×長濱ねる/重箱の隅に宇宙を感じる者同士
アントワーヌ・ローラン、吉田洋之 訳『青いパステル画の男』(新潮クレスト・ブックス)
青柳龍太/蒐集という名の自己愛に関する物語
温 又柔『祝宴』
坂本美雨/『祝宴』によせて
黒川 創『彼女のことを知っている』
吉本由美/性がもたらすもの、もたらしたこと
大西康之『流山がすごい』(新潮新書)
柳瀬博一/流山=地方自治と都市計画の「生きた教科書」
アダム・ファーガソン、黒輪篤嗣 訳、桐谷知未 訳、池上 彰 解説『ハイパーインフレの悪夢―ドイツ「国家破綻の歴史」は警告する―』
為末 大/人間と社会を破壊するハイパーインフレの悪夢
窪 美澄『夏日狂想』
[特別対談]窪 美澄×梯 久美子/「書く女」ができるまで
【私の好きな新潮文庫】
八木康夫/テレビマンが敬愛した向田邦子の3冊
向田邦子『寺内貫太郎一家』
向田邦子『思い出トランプ』
向田邦子、碓井広義 編『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉―』
【今月の新潮文庫 特別編】
尾崎世界観、千早 茜『犬も食わない』
彩瀬まる/ありふれていて、どこにもない
大前粟生/間違えた先で出会ったふたり
新潮文庫 中高生のためのワタシの一行大賞受賞作品発表
【コラム】
三枝昴之・小澤 實/掌のうた
島村菜津『シチリアの奇跡―マフィアからエシカルへ―』(新潮新書)
島村菜津/シチリア島の諦めない人々が生んだ奇跡
三宅香帆/物語のふちでおしゃべり 第10回
崎山蒼志/ふと、新世界と繋がって 第4回
[とんぼの本]編集室だより
【連載】
エリイ(Chim↑Pom from Smappa!Group)/生時記 第5回
近藤ようこ 原作・梨木香歩/家守綺譚 第4回
橋本 直(銀シャリ)/細かいところが気になりすぎて 第3回
大木 毅/指揮官と参謀たちの太平洋戦争 第2回
高嶋政伸/おつむの良い子は長居しない 第8回
二宮敦人/ぼくらは人間修行中 第25回
伊与原 新/翠雨の人 第13回
川本三郎/荷風の昭和 第56回
編輯後記 いま話題の本 新刊案内 編集長から
立ち読み
編集長から
今月の表紙の筆蹟は、筒井康隆さんと蓮實重彦さん。
◎ワクチンの副反応で起き上れない時間潰しに、青空文庫の与謝野訳『源氏物語』を読み始めて早々、源氏が空蝉の弟小君と同衾する場面がありました。「これ、そういう意味?」と解説書に当るとやはり〈実事あり〉の由。源氏は意中の姫を得るためには女房(女使用人)だけでなく同性とも誼を通じる訳です。
◎近代文学で実事の有無が争点になったのは樋口一葉「たけくらべ」。お侠だった美登利がある日を境に人が変ったように温順しくなるのは初潮を迎えたからだとされてきたのを、あれは美登利が初店を取らされたせいだと佐多稲子が1985年に読み替えました。確かにそう読む方が美登利の哀れや周囲の目や母親の台詞が切実に迫ってきます。恩田陸さん『木曜組曲』のある登場人物は佐多説を当然と見なし、初潮説については「そんなのどかな説が長いこと定説になるとは、国文学とはずいぶんとおめでたくロマンチックな、そして完全な男社会であることよ」と厳しく斥けていました。
◎映画では「ローマの休日」のアン王女の実事問題が有名ですが、これはマーク・ピーターセンさんが『ニホン語、話せますか?』の中で詳細に分析し、実事ありだからこそ見事な成長物語になった、と既に解決済み。
◎実事より微妙なのは「太陽がいっぱい」で、淀川長治さんが吉行淳之介との対談で「ホモセクシュアル映画の第一号」と呼び、隠された意味を「映画の文法」という言葉を使って説明していきます。吉行さんは半信半疑ながら、明快な論旨。ポーリン・ケイルもあの映画を“with homosexual hatred”とちゃんと指摘していました。淀川さんケイルさんの映画批評は全然「おめでたくロマンチック」ではなく、常にアテにできます。
▽次号の刊行は一月二十七日です。
お知らせ
バックナンバー
雑誌バックナンバーの販売は「発売号」と「その前の号」のみとなります。ご了承ください。
雑誌から生まれた本
波とは?
1967(昭和42)年1月、わずか24ページ、定価10円の季刊誌として「波」は誕生しました。新潮社の毎月の単行本の刊行数が10冊に満たず、新潮文庫の刊行も5冊前後という時代でした。こののち1969年に隔月刊に、1972年3月号からは月刊誌となりました。現在も続く「表紙の筆蹟」は、第5号にあたる1968年春季号の川端康成氏の書「風雨」からスタートしています。
創刊号の目次を覗いてみると、巻頭がインタビュー「作家の秘密」で、新作『白きたおやかな峰』を刊行したばかりの北杜夫氏。そして福田恆存氏のエッセイがあって、続く「最近の一冊」では小林秀雄、福原麟太郎、円地文子、野間宏、中島河太郎、吉田秀和、原卓也といった顔触れが執筆しています。次は大江健三郎氏のエッセイで、続いての「ブックガイド」欄では、江藤淳氏がカポーティの『冷血』を、小松伸六氏が有吉佐和子氏の『華岡青洲の妻』を論評しています。
創刊から55年を越え、2023(令和5)年4月号で通巻640号を迎えました。〈本好き〉のためのブックガイド誌としての情報発信はもちろんのことですが、「波」連載からは数々のベストセラーが誕生しています。安部公房『笑う月』、遠藤周作『イエスの生涯』、三浦哲郎『木馬の騎手』、山口瞳『居酒屋兆治』、藤沢周平『本所しぐれ町物語』、井上ひさし『私家版 日本語文法』、大江健三郎『小説のたくらみ、知の楽しみ』、池波正太郎『原っぱ』、小林信彦『おかしな男 渥美清』、阿川弘之『食味風々録』、櫻井よしこ『何があっても大丈夫』、椎名誠『ぼくがいま、死について思うこと』、橘玲『言ってはいけない』、ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、土井善晴『一汁一菜でよいと至るまで』などなど。
現在ではページ数も増えて128ページ(時には144ページ)、定価は100円(税込)となりました。お得な定期購読も用意しております。
これからも、ひとところにとどまらず、新しい試みを続けながら、読書界・文学界の最新の「波」を読者の方々にご紹介していきたいと思っています。