新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

パクリか否か

 中国、韓国を揶揄する一つのパターンとして、その著作権意識の低さ、簡単に言えば「パクリ常習犯」だというところを取り上げるというものがあります。確かに中国の遊園地のネズミや巨大ロボットには笑わせてもらいました。
 ただ、冷静になってみるとあまり日本人も偉そうに言えない面もあって、ちょっと前までの邦楽なんてそれは酷いものでした。あるロックバンドの代表曲なんて、外国の人が聴けば絶対カバーだと思うようなものです。数少ない代表曲だからか、そのバンドは今でもそれを定番にして演奏していますが、見る度に何だか嫌な汗をかきます。
 身近なところで結構経験したのは、タイトルのパクリです。『バカの壁』『国家の品格』『人は見た目が9割』あたりは、随分似たタイトルのものが出ました。パロディとかオマージュという感じのものもあるので、すべてが悪いとは言いません。新潮新書でも『現代老後の基礎知識』という本がありました。
 しかし、「これはちょっとなあ」と思うものもかなりあったのは事実です。
『人は見た目が9割』の場合、売れ始めた直後から、同じ新書版で『○○が9割』というシリーズ本が驚異的なスピードで出されるようになって、驚きました。しかもそれが結構売れていたりしたもんだから、複雑な気持ちになったものです。真似されるうちが華なのですが。

 7月の新刊『やっぱり見た目が9割』(竹内一郎・著)は、その『人は見た目が9割』の続編というか、パワー増強版というか、そういう本です。「オーラは見た目のプロに宿る」「橋下市長はなぜ前髪を上げたか」「美人だから華があるとは限らない」「面接は入った瞬間に勝負が決まる」等々、見出しを並べただけでも、面白そうな感じが伝わるのではないでしょうか。実際、前作よりも深く、面白い本になっていると思います。
 他の3点もご紹介します。
タモリ論』(樋口毅宏・著)は、気鋭の作家が書いたタモリへのラブレターであり、また前代未聞のお笑い論。著者の異常なまでのタモリ愛が注ぎこまれており、その熱に押されて一気に最後まで読み通してしまいます。お笑い論ではありますが、終盤には奇妙なほど感動もしてしまいます。すでにゲラ段階で読んだ関係者、書店等々から、絶賛の声が寄せられています。タモリと並んで「お笑いBIG3」とされる明石家さんま、ビートたけしについての論考もあります。
名前の暗号』(山口謡司・著)は、名前に関するありとあらゆるウンチクが詰めこまれた一冊。「AKBにはなぜ『子』がつく人気者が多いのか」を考えたかと思えば、「キラキラネーム(DQNネーム)」についての分析も。日本人の名前に多く使われる漢字の「そもそもの成り立ち、語源」がわかるようにもなっているので、「へえ、俺の名前ってこういう意味なのか」とわかるはずです。
ネットのバカ』(中川淳一郎・著)は、ネットについての評論では当代随一の論客が、遠慮もタブーも無しに書きつくした「2013年のネット論」。ネットが普及することで、知的空間が広がり、民主主義は洗練され、言論空間は活発化し……といった「幻想」はもう崩れ去ってしまいました。では、私たちはどうネットと向き合えばいいのか。身もフタもない現実を分析しながら、示してくれます。

 4点いずれもオリジナリティにあふれた作品です。

2013/07