新潮新書

今月の編集長便り 毎月10日のメルマガで配信さている「編集長から」を「今月の編集長便り」として再録しました。こんなことを考えながら日々仕事しています。

英会話の話

 欧米のミュージシャンのライブに行って、ちょっと情けない気持ちになるのは曲間のトークのコーナーの時です。悲しいことに、もともと貧弱だった私の英語力は年を取るにつれて衰退の一途を辿っています。いま何て言ったのだろう? そう思っていると、客の一部だけが嬉しそうに笑い声をあげていたりします。トークが面白かったのかもしれませんが、こっちにはその客たちが「俺、英語わかるけんね」というアピールのために大きな笑い声を出しているようにも感じられます。
 何となくムカつきます。
 少し前に安倍首相がアメリカの議会で行った演説について、発音をバカにしているコメンテイターがいました。発音が悪い。棒読みだ。そんな批評をしていました。
 そうかもしれない、いや実際そうなのでしょう。でも、何となくそんな風に言っている人からも、「俺、英語わかるけんね」感が漂ってきていて、嫌な感じだったのです。
 こっちの僻みであることは百も承知ですが、英語ができるのがそんなに偉いのかよ、と言いたくなってしまうのです。

 もっとも、6月新刊の『英語の害毒』(永井忠孝・著)を読むと、英会話が苦手でも大丈夫なんじゃないの、と思えるようになりました。著者は、早期の英語学習や、日本中に蔓延する「ビジネスマンなら英語くらいできないとね」という風潮を厳しく批判しています。さらに、日本人が英語を学ぶ「害悪」についても具体的な研究やデータをもとに指摘していきます。
「いやいや、そうはいってもこれからの時代、英語は大事でしょ」と思う方、「子供には幼いときから英会話を学ばせたい」と思う方はぜひご一読ください。首相のたどたどしい発音も決してバカにしたものではない、ということもわかります。

 他の新刊3点もご紹介します。
常識外の一手』(谷川浩司・著)は、日本将棋連盟会長で永世名人でもある著者が、電王戦といった最近の話題から棋士という仕事についてまで語った一冊。将棋好きはもちろん、(私のように)駒の動かし方すらあやふやな人間でも楽しめる内容になっています。かつて天才少年と言われた谷川さんも50歳を過ぎました。「プロ」と「一流」とはどこが違うのか等、含蓄のある話が詰まっています。
どん底営業部が常勝軍団になるまで』(藤本篤志・著)は、ベストセラー『御社の営業がダメな理由』の著者による“実践編”とでもいうべき内容。低迷していた営業部が著者のコンサルティングによって「闘う集団」へと変貌していく様は、実にドラマティックです。ストーリーを追いながらビジネスのノウハウが身につくという点では、「もしドラ」に近いかもしれません。
好運の条件―生き抜くヒント!―』(五木寛之・著)は、80歳を過ぎてなお執筆意欲衰えぬ著者による人生論です。日刊ゲンダイの連載は、1975年開始だそうなので、40年もの間、休みなく毎日エッセイを書き続けていることになります。それ以外に新聞連載小説や週刊誌連載もあり、さらに講演で全国を飛び回っていらっしゃるのですから、もはや超人としか思えません。そんな著者の思考の一端を知っておけば、自らに「好運」を呼び込むこともできるのではないでしょうか。

 4点すべて全部日本語の本です。
 今月も新潮新書をよろしくお願いします。

2015/06