本作のテーマは「俳句×小説」! 句会で出た俳句から着想を得て生まれた物語は、俳句の十七音という枠を飛び出し、読者の想像をはるかに超える色彩豊かな無限の世界へと広がっていきます。物語の舞台は現代。ミステリあり、ホラーあり、社会派あり、SFあり、人間ドラマありと、様々なジャンルの詰まった、まさに宮部ワールドの魅力全部入りの宝箱のような一冊です。
12編が入った本作の中から3編を抜粋してご紹介します。
・〈月隠るついさっきまで人だった〉
5歳上で大学生のお姉ちゃんは、初めて恋人が出来てから少しずつ様子がおかしくなってきた。
・〈薔薇落つる丑三つの刻誰ぞいぬ〉
縁を切りたかった彼氏とその友人たちに攫われ連れてこられた先は、有名な心霊スポットだった。
・〈鋏刺し庭の鶏頭刎ね尽くす〉
夫とその家族は、15歳の時に亡くなった元カノの"みっちゃん"がどうしても忘れられないらしい。
解説は宮部さんが俳句に興味を持つきっかけとなった『怖い俳句』(幻冬舎新書刊)の著者・倉阪鬼一郎氏。各短編の魅力を解説していただきながら、俳句つながりで思わずニヤリとしてしまうような、作品がさらに広がっていくような仕掛けをご用意していただきました。さらに〈ぼんぼん彩句〉シリーズの最新作を、新潮社のWEB文芸誌「yomyom」にて2026年1月より連載開始いたします! 宮部さんの熟達の筆をあますことなく味わえる短編になっておりますので、楽しみにお待ちください。
九州だけに展開するコンビニチェーン「テンダネス」。その名物店「門司港こがね村店」には勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡してしまう魔性のフェロモン店長・志波三彦がいた。今日もまた、彼の元には超個性的な常連客(兄含む)たちと、悩みを抱えた人がやってくる......。
2021年『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞した町田そのこさんのもう一つの代表作で、全世界累計90万部突破の人気シリーズ『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』が2026年春、NHK総合にてドラマ化決定しました。主演は「国宝級イケメン」として話題のケンティーこと中島健人さん。脚本は「正直不動産」の根本ノンジさんです。
さらにこの作品は、本屋大賞×JR西日本 presents「第2回ほな西へいこか本大賞」の大賞を受賞しました。この賞は本屋大賞実行委員会とJR西日本が主催で、"読むと西エリア(関西・北陸・せとうち・山陰・九州)のどこかへ旅にでかけたくなる日本の「文庫本」小説"を決定する文学賞です。
注目の集まる「コンビニ兄弟」シリーズですが、11月28日に発売した最新作、第5巻目では店長・志波三彦の過去がついに明らかになります。どうしてテンダネスに勤めようと思ったのか、彼の人生にいったい何があったのか......ファンも驚きの展開が待ち受けています。多方面に広がっていく「コンビニ兄弟」をどうぞお楽しみに。
今年は12月22日が冬至です。昼の時間が一年で一番短い日であり、ゆず湯に入ったり、かぼちゃを食べたりという方も多いでしょう。
この冬至を出発点に、一年を二十四の季節に分けたのが二十四節気です。小寒、大寒、立春と続き、夏至、秋分、立冬など経てふたたび立冬に戻るというもので、かつては農作業の目安などにも使われていまいました。ただし現代ではなじみが薄くなり、春分など代表的なものしか知らないという人がほとんどなのでは。
そんな二十四節気が現在でも息づいているのが、茶道の世界です。エッセイストの森下典子さんは二十歳からお茶を習い始めました。当初は茶道のことを行儀作法だと思っていたという森下さんですが、これが新たな世界の始まりで以来40年以上にわたりお茶を続けています。そして、茶道をとおしての気づきや感動を綴った『日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ―』は70万部を突破するベストセラーとなり、黒木華さん、樹木希林さんらの出演で映画化されたことでも話題になりました。今回文庫化された『好日日記─季節のように生きる─』はその続編にあたる作品で、森下さんが茶道をとおして気がついた「季節の美しさ」が綴られています。そんな本書から、「まえがき」の抜粋をご紹介しましょう。
これはある一年間の稽古の日記だ。私たちが見過ごして気づかない二十四の季節の、音と匂いと肌ざわりの記録である。
ちなみに、本作は2018年に単行本として出版されましたが、森下さんは今回の文庫を「完全版」とするためさまざまに加筆し、新パートも増補しています。また、小林聡美さんによる文庫解説もお見逃しなく!
職人作家デミングが生んだ本書の主人公、タフガイ探偵マニー・ムーンが活躍したのは、パルプ雑誌黄金期の終わりの1940年代末から1960年代はじめにかけて。ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーと並んでハードボイルド御三家の一人とされるロス・マクドナルドと、ほぼ同時期に活躍していたことになります。さらにはハドリー・チェイス、ミッキー・スピレインとも同世代。これら正統派のハードボイルド小説から派生して、マイクル・コリンズやマイクル・Z・リューイン、ローレンス・ブロックらによるネオ・ハードボイルドやソフトボイルドの探偵ものが生まれました。
いっぽう、エドガー・アラン・ポーを始祖とし、アガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、ディクスン・カーらが黄金期をつくりあげた本格ミステリーはというと、その進化系として、混迷する推理をも売り物とするコリン・デクスター(モース警部シリーズ)や、R・D・ウィングフィールド(フロスト警部シリーズ)へと継承されていったわけですが、何を隠そう、作者リチャード・デミングは、かつてエラリー・クイーン名義のゴースト・ライターとして十作近くもの長篇を発表しています。いわゆる正統派ハードボイルドの源流と肩を並べるマニー・ムーンものの魅力が、それだけにとどまらない理由のひとつはそこにあるのでした。
ハードボイルド探偵ものでありながら本格ミステリー顔負けの謎解き。そして、「名探偵、皆を集めてさてと言い」よろしくの犯人当て&トリック解明──ジャンルを定めず膨大な量の作品を書き残した職人作家だからこその自由な面白さが、そこにはあります。それがいまから半世紀も昔にすでにして生まれていたのでした。もちろん、ハードボイルド小説ファンにはおなじみの「ワイズクラック(へらず口)」も満載。栄えあるこのミス第1位に輝いた"本格推理私立探偵小説"集を、ぜひともご堪能ください。
言葉数を多くすることで、暗がりから徐々に現れてくる詩がある。言葉数を少なくすることで、暗がりのなかで蛍火のように点滅する詩もあるかもしれない。(中略)
今の夥しい言葉の氾濫に対して、小さくてもいいから詩の杭を打ちたいという気持ちがあった。(『虚空へ』あとがきより)
2024年11月13日、詩人・谷川俊太郎さん、逝去。
19歳のデビューから70余年もの間、私たちとともに在りつづけた詩人の、あまりにも大きな死でした。
あれから1年、最新文庫『虚空へ』が発売となりました。本作は、谷川俊太郎さんが私たちに残してくれた、生前最後の詩集の文庫化となります。誰よりも巧みに言葉をあやつりながら、同時に疑いつづけた谷川さんが、最晩年に渾身の願いを込めて編んだ十四行詩・88篇。
そんな記念碑的詩集の文庫化にあたり、歌人・俵万智さんが解説を寄せてくれました。俵さんは、はじめて谷川さんとお会いしたときに「あなたは現代詩の敵です」と言われたそうです。短歌という五音七音に身をゆだねていることへの批判だと受け止めていたそうですが、それが違った意味を持つ可能性に、谷川さんの没後、俵さんは気づきます。
真意を確かめる術はもうないけれど──言葉とは、定義とは、ここまでに難しく愛おしい。詩と短歌、それぞれに日本語を愛し愛されたふたりのすてきな関係性が垣間見える貴重な解説も、あわせてお楽しみください。
最後に、本書『虚空へ』のなかから一篇を紹介します。
(気配が)
気配が/ある/姿なく/いる気配/
夢ではない/すぐ傍に/いる/
歓びが/思い出す/哀しみ
時を/まとった/懐かしいひとの/気配
その、懐かしいひとは、いまも私たちのとなりに──。谷川さんが遺したことばのおくりものを、新潮文庫よりお届けいたします。

































