「この街には欲望を満たすものが全て揃っている」これは著者の本橋信宏さんが本文の中で、そして担当編集者と歌舞伎町を巡っているときにも発した言葉です。「全て」という言葉に誇張を感じるかもしれませんが、その疑念は本作を読むうちに払拭されます。それほどまでに魅惑的でカオスで常識外の出来事が日常茶飯事で起こる街なのです。
本作は歌舞伎町という場所の成り立ちから、現在のトレンドまで、歴史を押さえながら、街を揺るがした大きな事件や深い闇に迫っていきます。44人もの死者を出した〈歌舞伎町ビル火災〉や未解決の〈歌舞伎町ディスコ殺人事件〉の裏側、抜け出せない違法カジノの実態、悪の代名詞となった「ぼったくりバー」の帝王の正体、かつて運び屋として捕まり、現在は暴力団に昼間店を貸しているスナックのママ、胸に代紋を入れた十代の少年ヤクザのその後、日本最大のホストクラブ密集地帯でしのぎを削るホストの本音、ヒットマンとして潜伏した現役ヤクザの生活、喧嘩に明け暮れた元ホストの人生、密売された無修正裏DVDの秘密、客が吸い寄せられる美しいキャバクラ嬢のリアル......。簡単には知ることのできないアンダーグラウンドの世界を全て知ることが出来る一冊になりました。
また新潮文庫では同じ「アンダーグラウンド」シリーズである『上野アンダーグラウンド』を刊行中です。動物園や美術館などの文化的で華やかなイメージとは裏腹に、その数百メートル先にはカオスで魔境ともいえるべき土地が眠っていました。こちらもぜひ合わせてお楽しみください。
「『東京都同情塔』には、全体の5%ぐらい、生成AIの文章を使っている」
2024年1月、芥川賞選考会後の記者会見での著者の発言は、日本のみならず、世界でも大きな話題を呼びました。
──日本で最も権威ある文学賞のひとつ芥川賞が、AIの使用を認めた。
そんな、どちらかと言えば否定的な驚きとともに刊行された本作は、しかし、AIへの敗北を認めたものでは決してありません。むしろ生成AI時代の「つくること」のあり方を鋭く問うた小説として、人間の描くあらたな物語の時代の到来を予期させるものでした。
実際、その後『東京都同情塔』は世界16ヶ国での翻訳が決定。イギリスのFinancial Times 「Best Books of 2025」に選出、アメリカの The Paris Review 「Our Favorite Books of 2025」で紹介されるなど、当初の否定的な声を見事に覆し、絶賛の声を浴びています。"Rie Qudan"は、いま世界でもっとも注目される日本人作家のひとりと言えるでしょう。
本作には、あり得たかも知れない「もうひとつの東京」が登場します。ザハ・ハディドがデザインした新国立競技場が建設されているifの未来。物語は、主人公の建築家・牧野沙羅が、〈同情されるべき人々〉【ホモ・ミゼラビリス】の暮らす新時代の刑務所・シンパシータワートーキョーのコンペに参加するところから始まります。そして空虚な言葉と正義が支配する東京に沙羅のデザインしたタワーがそびえ立つとき、建築が、言葉が、現実をデザインしていることに私たちは気づくのです。
今回、文庫化に際し「ユリイカ」(青土社)掲載の短篇「Planet Her あるいは最古のフィメールラッパー」を特別収録いたしました。加えて、ふたりの建築家──永山祐子さんとの対談、青木淳さんによる解説も掲載。現実の建築家と架空の建築家が響き合う、作品をより立体的に楽しめる一冊となっています。
作家・九段理江の建築した『東京都同情塔』の世界を、ぜひ存分にお楽しみください。
偏差値35から東大合格を果たしたことでも注目される、西岡壱誠さんによる「東大シリーズ」から、話題の一作目が文庫に登場しました。
西岡さんは、高校までは勉強しても成績が上がらず、学年ビリ。そんななか、元担任に背中を押されたのを機に、東大受験を目指すことになったのです。偏差値35からの受験は途轍もないことであり、二浪の経験で試行錯誤を重ねました。まず、東大の入試問題を分析してみると、「知識の量を増やす」勉強では合格できない、「考える力」を身につける必要があると気づいたのです。そのために、教科書や参考書の読み方から変え、本と徹底的に議論し、受動的な読み方から能動的に「どうしてこうなるのだろう?」「本当にそうなんだろうか?」と、本と会話するつもりで読むようにしてみたのです。すると、読み込む力が付き、得た知識を運用する地頭も鍛えられ、浪人中に偏差値は70に、東大模試で全国第4位となり、ついに東大合格を果たしました。
そして、入学してみると、東大生たちの多くは、同じような本との向き合い方をしていたことを知ることになったのです。東大生の読書は、大量に読む、難しい本を読む、速く読むというイメージがありますが、まったく違っていました。すべてを丁寧に読むのではなく、わからないところは飛ばし、必要ないと思った部分は切り捨てることもあるのです。一方で、大事だと思うところには異常なほど粘るのです。それは、テクニックというよりも、「読書との距離の取り方」だと気づいたのです。
例えば、まず本を読むときに、ふつうは冒頭から読むことが多いのですが、東大生はタイトルやカバー、帯の情報などにヒントを得て読み進めます。あるときは、記者になったつもりで、疑問を抱きながら読んだり、2冊同時にパラレル読みをしているのです。これは、別の切り口から新たな情報を得ることも可能になるのです。
東大生は元々頭が良いのではなく、向き合うものに対して、いかに時間を有効に使うか、どうように距離を取るかに大きな違いがある。それは、勉強にも仕事にも効果的であると気づいた著者が、「読書」をテーマにまとめたのが本書『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』です。PART1では5つのSTEP、PART2では6つのMETHODにより、実践的で簡潔に解説されています。
そして、あとがきでは、「本の良し悪しって、読み手によって変わるんだ」と語っています。1冊の本から10を得る人もいれば、逆に何も得ることができない人もいる。変わらなければならないのは「読み手」のほうであり、同じ本でも「読書術」が変われば、あなたが読む本は、きっと「いい本」になるはずです、と記しています。
これまで誰も指摘しなかった画期的な「読み方」で、知的好奇心が高まるヒントが満載されています。難関受験を目指す人ばかりではなく、社会人や親世代にも、是非読んでいただきたい一冊です。AIやスマホの活用が拡大し、長文を読んだり、読書が苦手な人も増えています。そんな方にも、マネするだけで本を読むのがラクになるポイントが詰まっています。
累計50万部突破の大人気「東大シリーズ」から、1作目が満を持しての文庫化です。この本を通して、あなたの「いい本」と出会ってみませんか。
『このホラーがすごい! 2024年版』(宝島社)国内編の第1位を獲得した、小田雅久仁さんの『禍』が文庫になりました。目、耳、鼻、口など、身体のパーツをモチーフにした7つの短編が収録されています。怪奇小説の新しい領域に踏み込んだ傑作です。
小田雅久仁さんは2009年、『増大派に告ぐ』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2013年、『本にだって雄と雌があります』でTwitter文学賞国内編第1位に輝きました。2022年に『残月記』で吉川英治文学新人賞、翌年に日本SF大賞を受賞。『禍』はそれらに続く4冊目の単著となり、2024年『このホラーがすごい! 2024年版』国内編で第1位を獲得しました(同点1位は背筋さんの『近畿地方のある場所について』)。寡作ながらすべてが傑作で、どれもが高い評価を得ています。文庫版の巻末に収録されている大森望さんの解説も、以下のように始まります。
まったく、寡作にもほどがある。
たいていの小田雅久仁ファンは、ためいきと一緒にそうつぶやいているのではないか。日本ファンタジーノベル大賞を受賞したデビュー作『増大派に告ぐ』の刊行は二〇〇九年十一月。それから十六年以上も経つというのに、単著の数はわずかに四冊。いくらなんでも少なすぎる。現役の日本人作家でトップレベルのヴィジョナリーであり、圧倒的な文章力を誇るファンタジストである以上、その才能をもうちょっと世間に知らしめる努力をしてもバチは当たらないんじゃないか。
......と愚痴を言いたくなるほど本が出ないにもかかわらず、小田雅久仁の名が忘れられることなくいまも熱心に読まれつづけ、新刊が出るたびになんらかの賞に輝いていることを思うと、日本の出版界もまだまだ捨てたもんじゃないと言うべきかもしれない。(『禍』解説より)
『禍』は、1編ごとに異なる身体のパーツをモチーフにした怪奇小説集です。
「食書」では口、「耳もぐり」では耳、「喪色記」では目、「柔らかなところへ帰る」では肉(贅肉)、「農場」では鼻、「髪禍」では髪の毛、「裸婦と裸夫」では肌。人体の部位から驚くような奇想が生み出され、まだ見ぬ世界へと読者をいざないます。
怖く、恐ろしいのはもちろんのこと、人生を踏み外し、どこにも行き場がなくなってしまった人物が、新しい世界へと旅立っていく、それは身震いするような恐怖であると同時に、恍惚でもある。恐るべき奥行きを備えています。小田さんが見い出し、そして完璧な形で描き出した、怪奇小説の未踏領域に、ぜひご来臨ください。
『あの日、君は何をした』から始まる「三ツ矢&田所刑事シリーズ」が累計50万部を突破しロングセラーとなっている、まさきとしかさん。まさきさんの新潮文庫初の作品が文庫オリジナルにて登場しました。
舞台は北海道のY市。10年前に解散した男性アイドルグループ「ファンキーカラーズ」の元メンバー・南田蒼太が刺殺体となって発見されます。一体だれが、なぜ──。芸能界を引退し、一般人として生活していた南田でしたが、元アイドル殺害事件としてメディアはセンセーショナルに報道し、ふたたび脚光を浴びることに。
南田と同じ職場のパート女性や、グループの元メンバー、元マネージャー、事件を追う週刊誌記者、かつて南田と一緒に暮らしていた伯母とその娘など、彼をめぐるさまざまな人物たちの視点で事件や南田が語られます。
プロローグとエピローグ、そしてその間に六編が収録された、連作短編ミステリです。
巻末の解説は読書系YouTube「ほんタメ」MCとしても活躍中の女優・齋藤明里さん。
「本作は、南田蒼太が誰に殺されたのか、なぜ殺されたのかという、ミステリーらしいフーダニット、ホワイダニットの謎に翻弄され、ページをめくる手が止められなくなります。しかし、それだけでは終わりません」と、本作の魅力を綴っています。
新潮社のPR誌「波」では、書評家の大矢博子さんが寄稿してくださいました。
「時にはじわじわと、時には一撃で、読者を搦めとる。これぞまさきとしかの真骨頂と言っていい」とこちらも大絶賛です。
発売5日目で早くも重版が決まった本作。札幌在住の著者が描く、身も心も凍り付くような衝撃のラストをぜひ体験してください。

































