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第1位 ミステリマガジン「ミステリが読みたい! 2024年版」ベスト・ランキング海外篇
第4位 宝島社「このミステリーがすごい! 2024年版」BEST 10 海外編
第7位 週刊文春「文春図書館 ミステリーベスト10」2024年版海外編
年末アンケートの結果発表の時期を迎えて、発表後半世紀の時を経てようやく翻訳紹介された小説が、海外ミステリーの読み巧者の方々に高く評価されました。その小説というのが、"プロが惚れこむプロ作家"ロス・トーマスが1970年に発表した第4作『愚者の街(The Fools in Town Are on Our Side)』です。
腐敗した南部の小さな街をさらに腐敗させ再興させるという、突拍子もない仕事の依頼を受けた元諜報員を主人公に据え、コンゲームに人間ドラマ、ハードボイルドにノワール小説といった、さまざまなジャンルの魅力を兼ねそなえ、さらに、先の読めない展開が待ち受けるという、小説好きにはたまらなく魅力的な犯罪エンターテインメント小説です。
『冷戦交換ゲーム』、『女刑事の死』といった作品で知られ、多くの作品がすでに邦訳紹介されていた著者のトーマスですが、初期の最高傑作との評判も多かったこの『愚者の街』は、これまでずっと邦訳紹介されずに陽の目を見ないままだったのでした。
新潮文庫の〈海外名作発掘〉シリーズは、このように、これまで邦訳紹介されなかった数々のエンターテインメント作品のなかから、海外作品を愛する読者の方々に喜んでいただけるようなものを見つけ出してこようという企画。
これまでに、ジャン=リュック・ゴダール監督による映画の原作小説『気狂いピエロ』(ライオネル・ホワイト著)、犯罪小説の巨匠ドナルド・E・ウェストレイクのスラプスティック・ミステリー『ギャンブラーが多すぎる』、ポール・オースターが別名義で発表したハードボイルド小説『スクイズ・プレー』(ポール・ベンジャミン著)、英国推理作家協会(CWA)第1回最優秀長篇賞を受賞したウィンストン・グレアムの『罪の壁』、Netflixオリジナル映画化作品の原作小説となったノワール怪作『悪魔はいつもそこに』(ドナルド・レイ・ポロック著)と、人気作家の未紹介作から知る人ぞ知る超絶マニアックなものまで取り揃えた、ユニークなラインナップを組み立ててきました。
シリーズでは、この『愚者の街』以外にも、フランソワ・トリュフォーが惚れ込み前述のゴダールに薦めて映画化が実現したという、ドロレス・ヒッチェンズによる原作小説『はなればなれに(Fools' Gold)』(1958年)が、本年度の「ミステリが読みたい!」で第11位に、「このミステリーがすごい!」でも第17位に、ランクインしました。これまたなんと60年以上も前に書かれた作品です。
面白い小説というのは色褪せない。少しでもその証左となったのなら、編集部としてこれほど嬉しいことはありません。シリーズの目印は、文庫オビにある〈海外名作発掘〉のロゴだけ。ぜひともこの目印を見つけて、その古びない魅力を堪能していただきたいものです。

「ふかわりょう」と聞いたとき、みなさんはまず、どんな姿を思い描くでしょうか。
白いターバンを巻きリズムに乗って「あるあるネタ」をつぶやく姿か、帯番組のMCか、クラブでターンテーブルを操るDJか、ラジオのパーソナリティか――。
ご本人は「マルチタレント」と呼ばれることに嫌悪感を示されているようですが、「マルチ(複数の)タレント(才能)」があることは、このたび刊行された新刊『世の中と足並みがそろわない』を読めば疑いようがありません!
本作は2020年に発売され2万部以上を売り上げた同名作品の文庫化なのですが、〈ふかわりょう初の文庫本〉という記念すべき作品でもあります。
「三軒茶屋を〈三茶〉と略せない」「女性を下の名前で呼べない」「AIにおすすめされる曲なんて聴きたくない」など、独特なこだわりが詰まったエッセイ集。実は、この本の装幀や帯にも、そんなこだわりが目いっぱい詰め込まれています。
特に、一頭だけいる「ヘッドホンをした羊」は、ふかわさんのこだわりなしでは生まれなかったことでしょう。帯がかかった状態だと、ちょろっと頭だけが見えるのもポイントです!
エッセイスト・ふかわりょうの魅力が、目いっぱい詰まった1冊。「ふかわさん、不器用すぎます......!」と思いながら読み進めるうちに、「あれ、なんかちょっと分かるかも」と共感してしまう不思議なふかわワールドを、ぜひお楽しみください!
漢詩? 中高生の時にやった、あの、ちょっと難解で、すこし退屈だったもの。
そう思う方にこそ読んでほしい文庫が完成しました。
著者は南フランス、ニース在住。俳句でいくつかの賞を受けている俳人ですが、その素性はよくわかりません。けれども、『いつかたこぶねになる日』をひとたび開けば、とてつもなく美しい文章の使い手であることはただちにわかります。
「世界を愛することと、世界から解放されること――詩はこのふたつの矛盾した願いを叶えてくれる」。そう語る著者が、大好きな漢詩を翻訳しながら、日々考えたことを綴った31編のエッセイが詰め込まれているのが、本作。
地中海を眺めながら過ごす日々の暮らしに、杜甫や白居易、夏目漱石らの詩が混ざりあうとき、これまで見ていた景色が新たに彩られて心がはずむのを感じます。
漢詩ってこんな面白さがあるんだ。
日常生活の隣に置いて、愉しむことができるものなんだ。
そんな新しい発見に満ちた、まったく新しいエッセイ集です。
その俳句の才能を谷川俊太郎さんが認め、今回江國香織さんが帯文を寄せ、池澤夏樹さんが書評で応援してくださいました。また文庫化にあたり、哲学者の永井怜衣さんによる鮮やかな解説文も収録しています。
ただ美しい文章に触れるよろこびが、ここにある。ぜひ、極上の読書体験を!
沢木耕太郎さんの『旅のつばくろ』を文庫化しました。本書の底本となった単行本は2020年4月に刊行されましたが、新型コロナウイルスが猛威をふるいはじめ、緊急事態宣言が発出された直後でした。政府から外出の自粛が要請され、書店が次々と閉鎖。せっかく準備した『旅のつばくろ』を誰が読んでくれるのだろうと不安になりました。ところが本書は刊行直後から多くの読者が手に取って下さいました。保育園が閉鎖されて行き場のなくなった子どもを公園で遊ばせていたところ、営業部の者から重版の連絡があり、その旨をお知らせする電話を公園からかけたことが思い出されます。旅に出られない日々にあって、多くの読者が旅する代わりに読んで下さったと思うと、感謝に堪えませんでした。
本書はJR東日本の車内誌「トランヴェール」に連載されたエッセイをまとめた作品です。世界中を歩いてきた沢木さんの作品としては意外ですが、はじめての日本国内の旅を綴ったエッセイ集となりました。また旅に出ることができるようになった今、噛み締めるように読み、味わいの溢れ出す本作をお楽しみいただけますように。
才能あふれる現役医師作家が数多く登場し、医学エンターテインメントはさながら戦国時代。なかでも食の描写に秀でた書き手の発掘を目指して設立された新人賞「日本おいしい小説大賞」への応募をきっかけに2021年にデビューした藤ノ木優さんは異色の存在といえるでしょう。
本作の主人公は、入局5年目の医師、北条衛。東京の大学病院で腹腔鏡のプロフェッショナルを目指し日々努力していたのですが、急遽異動を告げられ、緊張に身を震わせながら、伊豆長岡に降り立ちます。総合周産期母子医療センターにはその厳しさが東京まで轟く、三枝善次郎教授がいるのです。激務で知られる病院と鬼教授。衛の運命は一体どうなってしまうのか。前任者からは「でも、飯だけは美味いぞ」という言葉だけは聞いているのですが――。
地域医療を取り巻くシビアな現実、若き医師の苦悩と成長、主人公を取り巻く個性的な医師群像――に加えて、とびきり美味い食! ありそうでなかった小説が、ここに誕生しました。書評家・杉江松恋さんも「今年いちばんの医療小説」と評価する『あしたの名医―伊豆中周産期センター―』。2023年イチオシのオリジナル文庫です。


































