中学生の頃、架空の鉄道のダイヤグラムを方眼紙に書いたり、時刻表を作った経験があります。それも1度や2度ではありません。こんな遊びをするのは自分だけかと思っていたら、同好の友人たちもやっていたので驚いたことを覚えています。
現在の仕事の中でも時刻表の企画を何度か考えたことがありますが、いまだに実現には至っていません。それに近い企画として、戦前の満洲・朝鮮・台湾・樺太の時刻表を復刻してセットにしたことはあります。これはこれで楽しかったのですが、これはあくまでも復刻版です。
数年前、明治時代の漢数字が横に並んでいる時刻表の「現代語訳」を企画したこともありましたが、編集費がかかり過ぎることがわかって諦めました。
今年は東海道新幹線50周年なので、昭和39年の開業から、おもな改正の時刻表を再編集したら楽しいのではないかと考えました。もともと新幹線の時刻表は在来線と違って列車のバラエティも少なく、熟読するようなページではありません。
それでも50年の歳月には重みがあります。おもな改正の時刻表を並べてみると、日本の大動脈の歴史が俯瞰できますし、それなりの懐かしさもあります。乗り継ぎ時刻表も掲載すれば、さらに楽しさは倍増するでしょう。「この企画は行ける!」とひとり盛り上がりました。
冷静になってみると、会社に手持ちの素材はありませんので、他社から借りるしかありません。この時点で諦めました。この企画を実現できるのは、2社しかないでしょう。だったら見慣れたJTBから出て欲しいなと思っていました。
私が考えつく企画ですから、当然他の編集者も考えます。先日書店の鉄道本の棚を見ていましたら、やはり出ていました。JTBではなく、交通新聞社です。『新幹線50年の時刻表 上巻・国鉄編 1964−87』。パラパラをめくってみると、私が夢想していたものと近いようです。あとは家でじっくり眺めようとレジに向かいました。
同業、同好の刊行物にあれこれ言うのは本意ではありませんが、自分が編集したかった内容のものなので、どうしても不満が残りました。最大の不満は、東海道新幹線だけではなく、東北新幹線も掲載しているということです。「諸般の事情」とか「大人の事情」があるのでしょうが、ここは東海道だけに絞るべきところでしょう。
それとどうやら上下2巻本らしいのです。私の手元にあるのは「上巻国鉄編」です。下巻は「JR編」でしょうか。これも国鉄とJRを分けずに1冊にまとめていただきたかった。
東海道新幹線の時刻表、乗り継ぎ時刻表、運賃料金表、編成表、と編集すべきことはたくさんあるはずです。それなのに在来線の時刻表まで「特別収録」してあります。
ああ勿体ない。素材が揃って、時宜を得ているのに!
編集部 田中比呂之(ひろし