新型コロナウイルス蔓延による日常生活への影響は大変大きなものでして、私、朝の散歩と日用品の買い物以外ほとんど外へ出ておりません。では無聊(ぶりょう)を託(かこ)っているかというとそんなことはなく、24時間があっという間に過ぎていってしまいます。
机に向かって資料を読んだり、さなきだに微量の、しかも使い古しの脳みそを無理やり搔き立てて、なんとか文章に仕立てる生業を維持しておりますし、三度三度食事をし、家の中が汚れているのは気が滅入るもとですから、ざっとですが掃除もいたします。
この掃除というものなかなか厄介なものでして、一か所きれいにするとし残した箇所が目立ってしまうのです。目立てば気になります。きれいにしたくなります。かように家事というものは際限なく、あとからあとから湧き出てくるものでして、世の中のご家庭をお持ちで家事を奥様任せになさっていらっしゃるご主人様、この辺りのことをよくお胸に刻んでおいていただきたく存じます。
詰まるところ私の家庭内での日常の行動は、コロナ禍前も後もあまり変わっておりませんが、ただひとつ圧倒的に変わりましたのは、遠出をしないことです。東京を離れてまもなく3年。少なくとも月に1回、多いときは3回も東京に出向いておりましたし、その間に大阪、京都、名古屋へ遠征することもございました。出向いた先で知人に会いましたとき「あなた、加賀に移転したって本当?」といわれ、なるほど、ひと月に3回も都心の劇場内で同じ人に出会えば転居を疑われても仕方がないと思ったものです。
ところで私の終の棲家は、老人の独り暮らしであることを最優先課題にリフォームしてもらいました。第一に掃除がしやすいこと。第二に怪我をしにくい造りであること。そして最重要課題として火事など外部にまで影響を及ぼしやすい設備にしないこと。つまり炎の出る器具は使わないようにしたかったのです。老人は咄嗟の判断が不得手です。当然、集中力にも瞬発力にも注意力にも欠けています。自分の為にも人様の為にも危険を極力回避する手段として設備はオール電化になりました。きれいだし、便利だし、いいこと尽くめですけれども心配がひとつ。料金です。
なにしろ北陸ですから冬は寒い。晴れていても小雪が舞っているような、空も海も灰色が基本色といったイメージがあります。加賀に住むと決めると早々、「北陸の冬の寒さは格別。あなたにその我慢ができるかどうか」と多くの方からご心配いただきました。さらに、夏はフェーン現象とやらでじりじりと蒸し焼きにされるような暑さになりますが、まずは冬に照準を合わせ、防寒を万全にということに決め、夏冬兼用の空調のほかに床暖房を入れ、壁には新式の断熱材をびっしり詰め込んでもらいました。お蔭で寒さしらずの冬を過ごしておりますが、気になるのはやはり料金。特に電気機器は冷房、冷蔵庫など冷やすものより暖房器具、アイロンなど熱を使うもののほうがより多くの電気を必要とすると聞いております。ある程度の覚悟はしておりましたが、電気料金の請求書を見るのは恐怖でした。
移転した当初は住処が定まらないままアパート暮らしをしておりまして、当時の熱源は電気とプロパンガスと灯油でした。ところが私、この年齢になるまでプロパンガスと灯油にはまったくご縁がありませんでしたので、その扱いにはかなり気を使いました。しかもその頃の1か月分の光熱費を見ますと2万2,090円になっています。東京の同じ月の光熱費は都市ガスと電気と合わせて1万9,931円。そして今年2020年の同じ月の光熱費は1万2,603円でした。安いではありませんか。
電気機器がどんどん進歩して性能が良くなったうえに、電力会社のエコ対策や契約内容の充実も一因かもしれません。加賀地域は北陸電力の管轄ですが、私は個人住宅用の土日祝日と20時から8時まで割引になる『くつろぎナイト12』というプランを契約しています。夜間料金は1時間12.51円。その代わり昼間の料金は7月~9月34.95円。10月~6月25.07円とかなり割高になりますが、これも土日祝日は19.64円に下がります。
他の電力会社も、もちろん割引のプランをいろいろ用意していて平日昼間の料金が1時間当たり23.95円とか基本料金2か月分無料というのもありました。ただ、オール電化にはどうしても喉にひっかかる棘があります。原子力発電所の存在です。
北陸電力は現在志賀原発が稼働しておりませんが、その分火力発電への依存度が高くなりCO²の放出量も多くなります。それが分かっていながら人間は快適な生活を手放すことができない。もはや原始時代に戻る気力も体力も失っているのです。つくづく罪深い生き物だと思います、人間というものは。
新型コロナウイルスとの共存生活は当分終わりそうにありません。そのさ中、ふと、人間の罪に突き当たってしまい、柄にもなく考え込んだ梅雨の入り口の一日でした。
我が家のキッチンは令和の御代を祝いました。