富士山登山鉄道

 富士山は眺める山だと思っています。以前住んでいたマンションの部屋からも借景のように富士山が見えましたし、今住んでいるマンションからもやはり借景のように富士山が見えました。数年前、無粋なマンションが目の前にできて、富士山を家から眺める楽しみがなくなりました。

 今年富士山が世界遺産に登録され、そのニュースは何度も聞きましたが、そのことで私の中の富士山の価値が変わることはありません。富士山は日本一美しい山です。その富士山に登山鉄道敷設の話が持ち上がっている、という記事が7月末に日本経済新聞に載りました。私にとってはこちらの方がニュースですね。
 富士五湖観光連盟がまとめた構想は、「スバルラインの入り口に富士山麓駅を新設し、道路に沿って線路を敷く。一般車は道路を通れなくなる。総延長は30キロ。終点となる5合目駐車場までの間には、山麓駅を含め6駅を設ける。展望のいい場所を選ぶことで、観光客にアピールする狙いだ。事業費は600億~800億円を見込んでいる」(日経7月26日付け)<記事へリンク>(外部サイト)という。
 5合目まで通じているスバルラインに鉄道を敷いて、緊急車両以外を閉め出してしまう構想ですね。この構想には既知感があります。またも宮脇俊三さんを引っ張り出して恐縮ですが、宮脇さんには『夢の山岳鉄道』(日本交通公社)という本があります。タイトルから察せられるように、日本の名だたる山岳観光地に登山鉄道を敷設するという夢想をかなり本気で書かれています。
 宮脇構想も富士スバルラインに鉄道を敷設し、車を閉め出します。「八両編成・定員八〇〇人の電車を一二分間隔で運転するとしても、一日五万人を運べそうにない」とかなり具体的かつ真剣です。さらに富士急の富士急ハイランド駅に接続させて始発駅とし、インターチェンジ、富士スバルランド、別荘口、聖母像展望台、幸助山、大沢展望台、奥庭口、御庭、五合目、の10駅、客扱いをしない信号場を3カ所設置、営業キロは29・2キロとなります。
 宮脇さんがこれを執筆されたのが1992年で、20年以上前のことになりますが、もちろん実現に至っていない。先に紹介した日経の記事は、富士山をめぐる登山鉄道構想の歴史を入念に調べていて面白い。(記者は鉄道ファンである可能性が高い)。「かつて存在した富士山登山鉄道計画」という一覧表まで掲載されています。表の最初はなんと1910年(明治43年)ですね。1935年には山頂までに地下ケーブル構想もあったらしい。車社会になる戦前に少しでも鉄道が敷設されていれば、今とは大きく異なる富士山観光の姿になっていたかもしれません。
 私は富士山登山に興味はありませんが、もし富士五湖観光連盟の構想が実現して、富士山登山鉄道が完成すれば、是非とも乗ってみたいと思います。

編集部 田中比呂之(ひろし)

2013年08月23日   関東

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