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「座る」鉄道のサービス 交通新聞社新書

 タイトルに惹かれて「『座る』鉄道のサービス」(佐藤正樹著)を拝読しました。正直、本書に書かれている内容の本を編集したいとボンヤリ考えていたので、「あっ、出てしまった」と思いました。着席サービスの鉄道史は、書かれなければいけない重要なテーマのひとつです。

su-1.jpeg 著者の佐藤さんは直接存じ上げませんが、車両や座席といったハードにも詳しく、さらに取材もしっかりされています。これが座席指定の歴史だけを語るのであれば、著作として奥行きが出なかったと思いますが、話は座席の快適性にまで及びます。
 私は昭和46年5月に奥羽本線と花輪線の撮影に出かけました。行きは上野から津軽1号に乗りました。かなり混んでいた記憶があります。秋田を過ぎてもまだ車内には多くの人が乗っていました。花輪線竜ヶ森駅付近で撮影したあと、盛岡から臨時急行「八甲田50号」に乗りました。この時に乗った車両がスハ32で、背ずりは木のままでした。急行に乗って背ずりが木だったのは、この列車だけです。2晩目の夜行がこれですから、かなり疲れた覚えがあります。(余談ですが、上野に着いて自宅に戻ったあと、学校に行きました)。
 本書にはこのスハ32の座席のことも書かれています。「当初、スハ32系のボックスシートは、座面だけがモケット張りで、背ずりは相変わらず板張りのままでしたが、昭和10年に登場した増備車からは背ずりもモケット張りになり......」。私が乗ったのは昭和10年以前の製造車だったがわかりました。ずっと気になっていたことが、この一文で腑に落ちました。
 本書にはこのようなことが随所に出てきます。ロングシート座席にも指定席の番号が振ってあることや開いている窓から荷物を放り込んで座席を確保するとかこれまで自分で解決しなかった疑問や懐かしいエピソードを差し込みながら、鉄道140年余りの歴史で「座席確保」の変遷が語られています。
 指定席券の発券で欠かせないマルスの変遷については、かなり詳細で具体的です。しかも分かりやすく、また鉄道ファンならば「そうだったのか」と思いながら、読み進めることができます。特に駅名が記された棒のようなハンコを差し込んだり、パタパタと金属製のページをめくったりしているのを眺めてきた世代には、「そうだったのか」の連続です。
su-2.jpeg ▲昭和49年暮れ、北海道旅行の帰りは「おおぞら」→「はくつる」の豪華リレーで帰還
 時々、「国鉄監修時刻表」という表現が出てきます。最初のうちは見慣れない表現だなぐらいにしか思いませんでしたが、思い当たって吹き出しました。発行元が交通新聞社でしたね。そう言えば「鉄道ジャーナル」誌では「レールファン」という言葉がしばしば使用されています。
 表現されていることはもちろんのこと、書かれていない行間にもしっかりとして背景知識が感じられる著作です。旅に持って行って、列車の座席で読むことをお薦めします。

編集部 田中比呂之(ひろし)

2013年10月29日   本の話

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