小野田滋さんの『東京鉄道遺産』(ブルーバックス/講談社)を読了しました。これは少なくとも東京周辺に住む鉄道ファン必読の書だと思います。昨今鉄道遺産については類書があまたありますが、たとえば設計者の名前が示され、先輩後輩、師弟関係などとともに語られた本はそう多くはないでしょう。どんなものにも物語があるように、鉄道の構造物にも多くの物語があり、その片鱗がわかりやすく書かれています。
----その構造物が技術史のどのような系譜に位置し、それに技術者がどうように関わったのか解説することを心がけた。ここで紹介した構造物は、いずれも過去の事業の成果物であるが、どんなに小さな駅にも、どんな短い橋やトンネルにも、それを建設しようとした人々の考え方や意志、技術者のこだわりなどが含まれている。
「遺産」とはいうものの紹介されている高架橋や橋やトンネルの多くはまだ現役です。その場に行けば現役の実物を眺めることができます。ですから「東京周辺に住む鉄道ファン必読」なのです。
----日頃見慣れている駅や橋やトンネルが、ある日突然違って見えるようになれば、本書の意図は達せられたことになる。
私も東京周辺に住む者として、例えばこのブログでも紹介しました万世橋駅などが違って見えてきました。
▲万世橋高架橋
----五反田駅に続く山手線目黒川間橋梁は、鋼トレッスル橋脚を用いた珍しい橋梁としてその姿をとどめている。鋼トレッスル橋脚を用いた橋梁としては、すでに撤去された山陰本線の旧余部鉄橋が有名であるが、......
▲明治45年に完成した余部鉄橋
五反田の「余部鉄橋」を見てきました。余部鉄橋は明治45年、池上電鉄五反田駅開業は昭和3年です。これほど飾り気もなくむき出しのホーム、それもターミナルは珍しいのではないでしょうか。しかも大東急のターミナル駅です。ともかく目黒川側から見上げてきました。この場所には平成18年春の桜の季節に撮影に来ましたが、「余部鉄橋」のことなど知る由もなく、写真にも写っていません。小野田さんが書かれているように、「ある日突然違って見える」ようになったというわけです。今回は桜の写真とほぼ同じ場所に立って、トレッスル橋脚も入れて撮影しました。また五反田出身のotome-c56さんの違う角度からの投稿写真もご覧ください。
編集部 田中比呂之(ひろし)