このブログでは何度も駅について触れてきました。本格的に興味を持ったのは、ごく最近のことかもしれません。『百駅停車』(小社刊)の取材のため、杉崎行恭さんと駅をめぐり、見どころやおもしろがり方を教えていただきました。
大阪駅の巨大空間も北海道の板張りの乗降場も同じ駅です。会員の皆様から投稿いただく駅の写真を見るにつけ、鉄道会社は実に面倒見がいいなと思ってしまいます。これだけの数の施設を管理運営しているのですから、お金もかかります。
乗客の数は駅によって違いますが、毎日人が来て去って行くので、まるで駅が呼吸しているようにも感じるのではないかと思う時があります。なんらかの魅力を発しているのです。駅の写真を撮る時、その駅の魅力を引き出すような写真を撮れないかといつも思います。でも実はその魅力がわからない場合もあります。
それで駅について書かれた本に目が行くようになりました。『怪しい駅 懐かしい駅』(草思社)もそんな一冊です。筆者の長谷川裕さんを存じ上げているわけではありませんが、最初に取り上げている駅が、東横線の祐天寺だったので立ち読みし始めて、そのままレジに向かいました。
祐天寺から中目黒方向に進むと、左手に石の置き場が見えます。周辺の地価からするとずいぶん贅沢な石置き場ですが、私の子供の頃から石置き場だったと記憶していました。朝の通勤時間帯には電車がこのあたりで徐行することもしばしばで、この石置き場をじっくり眺めることもあります。
この場所が植木屋さんの土地であることをこの本の冒頭で知ることになったのですが、長谷川さんは終戦直後の米軍撮影航空写真で確認して、「驚いたことにこの植木屋さんのあたりは現在とほとんど変わっていない。戦後六十数年、あの石たちはあの場所に居座り続けてきたのである」と書かれています。ご興味がある人は、東横線に乗った折に、祐天寺の車窓にご注目ください。大きな石がごろごろしています。
この本には「東京近郊駅前旅行」というサブタイトルがついていますので、東京周辺の駅だけが取り上げられています。私鉄駅が多いですね。井の頭線、大井町線九品仏、東武伊勢崎線浅草、東武大師線大師、京成押上線京成立石などなどどちらかというと怪しい駅に力が入っている印象です。
都電・旧葛西橋停留所につけた小見出しは「ヤミ米の運び込まれた流通ルート」。やはりどうしても怪しい方に惹きつけられるようです。この旧停留所に出かけていって、出会った84歳の老人にこの章のほとんどを語らせてしまう。老人の口上、楽しませていただきました。ふらっと出かけていって、思わぬ話が聞けた経験は誰にでもあると思いますが、得した気分が体内に充満して気持ちがいいものです。
この本を読むとその駅に行って、のんびり周辺を散策してみたくなります。絵を描かれている村上健さんの絵がますますその気にさせるのでしょうか。私は152ページの西武電車の眠たげな表情がお気に入りです。
冬休みにここに取り上げられた奥多摩駅にでも行ってみようかとぼんやり考えています。
編集部 田中比呂之(ひろし)