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大回り乗車で「特急」に乗る  重岡宗太郎

「則鉄=のりてつ」重岡宗太郎さんに近郊区間のお話を続けていただきます。「大都市近郊区間」と言えば、初乗り運賃で「大回り乗車」をする鉄道ファンを見かけます。規則上は特急料金を払えば、特急にも乗車できるようです。

問題の回答
 前回の問題は、「神田駅から山手線内回り電車で1周する場合、どのような普通乗車券を購入すれば良いか?」でした。
(答1)
神田駅から神田駅までの乗車経路どおりの片道乗車券480円を購入する。
→規則第67条の原則どおり、実際の乗車経路(営業キロ34.5キロメートル)に基づいて計算しています。

(答2)
神田駅から秋葉原駅までの往復乗車券(経路:東北本線)140円×2=280円を購入する。
→神田駅から秋葉原駅までは、往復乗車券の往路(ゆき)で乗車できます。次に秋葉原駅から山手線電車をほぼ1周して神田駅までは往復乗車券の復路(かえり)で乗車していることになります。復路の乗車券の経路は「東北本線」ですが、大都市近郊区間内相互発着の特例が適用され、「他の経路を選択して乗車することができる」ので、秋葉原駅から東北本線、山手線、東海道本線と乗車することが可能です。そのため、往復乗車券で山手線電車1周ができることになります。なお、神田駅から東京駅までの往復乗車券でも同じです。

(答3)
神田駅から神田駅まで(経路:神田駅→秋葉原駅→御茶ノ水駅→神田駅)の片道乗車券140円(営業キロ2.9km)を購入する。
→(答2)と同様に大都市近郊区間内相互発着となるため、「他の経路を選択して乗車することができる」ため、山手線電車を内回りで1周することができます。

大都市近郊区間の大回り乗車
 大都市近郊区間の大回り乗車は、これまで説明した「他の経路を選択して乗車することができる」という特例に基づいて可能となります。
 例えば神田駅から秋葉原駅まで、山手線電車内回り(経由:東北本線)の普通乗車券を持っている場合、「他の経路を選択して乗車することができる」ので、山手線電車外回りに乗れます。さらに、神田駅から茅ヶ崎駅、橋本駅、八王子駅、倉賀野駅、高崎駅、新前橋駅、小山駅、友部駅、我孫子駅、日暮里駅という経路を選択しても良いのです。ただし、大回り乗車中に途中駅で下車した場合は差額が必要です。例えば茅ヶ崎駅で下車した場合は神田駅~茅ヶ崎駅間の運賃との差額が必要となります。(普通回数乗車券は区間変更ができないため、神田駅~茅ヶ崎駅間の運賃が別に必要)
 念のため該当する規則を引用しておきます。

規則第157条第2項
大都市近郊区間内相互発着の普通乗車券及び普通回数乗車券(併用となるものを含む。)所持する旅客は、その区間内においては、その乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、同区間内の他の経路を選択して乗車することができる。

同第3項
前項の場合、普通乗車券を所持する旅客が、他の経路を乗車中に途中駅において下車したときは、区間変更として取り扱う。

 なお、「大都市近郊区間内相互発着」とは、乗車経路が片道であり、大都市近郊区間から外に出ないことと解されます。つまり、ルートは一筆書きである必要があります。また、前編でも触れたとおり、大回り乗車について新幹線及び山形新幹線〈つばさ号〉を除けば特急、急行列車の乗車制限もありませんので、特急券等を購入すれば特急、急行列車にも乗車できます。なお、実際に大回り乗車を試みる場合は、車内改札等で無用な誤解を防ぐために、実際の乗車経路を示した路線図を用意するなどした方が良いかも知れません。
「トラブルを防ぐため、実際の乗車経路どおりの普通乗車券を買っておけば良いのでは?」という方もいらっしゃるかと思いますが、前述のとおり、規則第157条第2項は「他の経路を選択して乗車することができる」と規定しているだけで、最短経路で計算するとは規定されていません。そのため、実際の乗車経路通りの普通乗車券を買うことはできますが、実際の乗車経路どおりの高い運賃となってしまいます。

拡大しすぎた大都市近郊区間の弊害
 前編の冒頭に書いたとおり、東京近郊区間は広大なものとなりました。そのため、常磐線いわき駅から篠ノ井線松本駅までの普通乗車券を買っても「下車前途無効」で有効期間は1日だけです。この区間の営業キロは450キロメートル近くもあり、東海道本線に例えると東京駅から米原駅に相当します。大都市近郊区間内相互発着でなければ有効期間は4日間で、途中下車もできます。
 そもそも、大都市近郊区間が新設された当時、東京近郊区間は平塚、大月、熊谷、小山、土浦といった東京を起点に100キロメートルに満たない範囲でした。それが、現在は200キロメートルを超える範囲までもが東京近郊区間に呑み込まれてしまいました。大都市近郊区間相互発着の場合、最短経路の乗車券で乗車することが可能であるというメリットもありますが、元来、比較的狭い範囲を想定した規則を一律に適用してしまうのは杓子定規で、Suica導入のためとはいえ、現在の東京近郊区間の範囲はいささか拡大し過ぎのようにも感じます。

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2014年05月23日   鉄道規則話

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