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自著を語る 『新幹線を航空機に変えた男たち』 前間孝則

かつてジェットエンジンの設計に携わった前間氏は、ノンフィクションライターに転じて『飛翔への挑戦』『弾丸列車』など産業・技術系のノンフィクション作品を多く手がけています。最新刊は東海道新幹線50周年に合わせ、鉄道の高速化に欠かせなかった航空技術との融合をテーマにした作品です。著者自ら最新刊について語っていただきました。

20140600_01.jpg 鉄道好きならば誰もが気付いているだろう。欧州各国で走る高速鉄道車両の先頭形状がどれもおとなしくて似た顔付きなのに、なぜか300系以降に次々と登場してきた日本の新幹線車両は、いずれもかなり違った風貌であることを。その表情も個性的でバラエティーに富んでいて、しかも派手な超流線形である。
 どうして新幹線だけがそうなったのか。そんな疑問と興味関心がきっかけとなって、本書をまとめることになった。
 この謎を解くカギは、地上を走る鉄道の技術者たちが、空を飛ぶ航空機技術を取り入れたところにある。具体的には、ジェット機開発で採用される最先端の空気流体力学や、聞き慣れない「遺伝的アルゴリズム」のソフト技術などである。その背景には、世界一厳しい騒音規制の日本で、速度向上と騒音対策という2つの難問を解決することを迫られたことがある。
 国鉄が分割民営化した1987年以降、JR東日本、東海、西日本各社は競い合って高速試験車両を製作した。新幹線が運行しない夜間を見計らって走らせ、300キロの壁を突破しようと挑戦したのである。ところが、アップした速度の何乗にも比例して増してくる空気抵抗や騒音は凄まじかった。
 またトンネル突入時には、超音速機(SST)などでも生じる衝撃波、通称"トンネルドン"の大きな破裂音が起こって頭を抱えた。周辺住民からの激しい反対の声に直面して、試験は継続できなくなり、お手上げ状態に陥ったのである。
 立ちはだかる技術の壁を乗り越え、飛躍させるためには新しい血(技術)の導入が必要となった。そこで、新型車両の開発責任者らは、経験とノウハウが豊富な宇宙航空研究開発機構(JAXA)や大学の航空機研究者らに救いを求め、コラボレーションが成立した。また500キロ走行するリニアの先頭形状の開発では、航空機のトップメーカーである三菱重工が引き受けることになった。
 その結果、空気抵抗が少なくて、トンネルドンが発生しにくい、あの日本独特の超流線形の先頭形状が誕生したというわけだ。まさしく、「新幹線を航空機に変えた」のである。
 かつて筆者は20数年間ジェットエンジンの設計に携わった。それだけに、鉄道車両と航空機のハイブリッドを目指して悪戦苦闘した人々に興味を抱いた。本書ではこれら新型車両の開発責任者および航空機の研究者たちに詳しく語ってもらった。
 振り返って見れば、0系の先頭形状の開発でも、戦前、零戦などを開発した航空機技術者たちが参画していた。その英断を下したのは、"新幹線をつくった男"として有名な島秀雄である。拙著『弾丸列車―幻の東京発北京行き超特急』をまとめるに際して、晩年の島氏に八回ほどインタビューしていたので、その際に聞いた秘話を本書にも盛り込むことができた。
 現在、新幹線の高速化は頭打ち(成熟化)となりつつある。日本の鉄道界はリニアの建設着工、そして遅ればせながらのグローバル展開を急速に推し進めつつある大きな転換点にある。だからこそ、こうした一連の新しい動きも含めて、開業50周年を迎える今年、新幹線の進化に向けた試行錯誤を「超高速化50年の奇跡」として記録しておきたかったのである。

前間孝則著
『新幹線を航空機に変えた男たち』(さくら舎) 定価:本体1600円(税別)

2014年06月20日   自著を語る   タグ : 東海道新幹線

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