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自著を語る 『ゼンリン住宅地図と最新ネット地図の秘密』 内田宗治

『関東大震災と鉄道』(小社刊)の著者内田宗治氏が、ゼンリンの地図制作現場の内幕を描いたノンフィクション作品を上梓されました。ゼンリンといえば、住宅地図やGoogle地図でお馴染みですが、地道な取材調査のことはあまり知られていないと思います。ここでは京王線廃線跡の話を中心に自著を語っていただきます。

20140600_05.jpg 一軒一軒の家の形の中に名字名前までが記入された『住宅地図』を、不動産屋や交番、図書館などで目にしたことがある方も多いだろう。国土地理院の2万5000分1地形図や、縮尺1万分の1程度の一般的な道路地図に比べ、『住宅地図』は1500分1と、縮尺が圧倒的に詳しい(大縮尺の地図ともいう)のも特徴である。
 この『住宅地図』制作のための調査は、今も全国約1000人の調査スタッフが路地裏まで歩き回るという超アナログ的手法で行われている。そうして調べたデータは、最新のデジタル技術で加工され、紙の住宅地図はもとよりグーグルなどのネット地図、カーナビ地図にもなっていく。全国の住宅地図を制作する株式会社ゼンリンの調査スタッフに数日間密着取材したり、コンピュータでの制作現場に潜入したりして、住宅地図の奥深さを『ゼンリン住宅地図と最新ネット地図の秘密』という本にまとめた。
 取材をしている間に、地形図や道路地図では分からない鉄道廃線跡が、住宅地図でなら鮮明に分かる場合があることを見つけたので、同書に掲載したその例を一つ示してみたい。
 写真1は、東京都調布市菊野台1丁目付近、京王線柴崎駅から続く地元商店街の道である。この道沿いで、写真の手前の白い家1軒だけが、道路に対して斜めに向いて建てられている。不自然といえば不自然だが、ふつうは何の気なしに通りすぎてしまうところだろう。
20140600_06.JPG ▲(写真1)なぜか一軒だけが道路に斜めに面している
 この家が方角をずらして立っているのは、ここが京王線の廃線跡のためである。京王線の旧線がこの道路を斜めに横断していた。その線路敷きにこの家は建てられている。よく見るとこの家は細長い。その奥の線路が続いていた土地にも長屋のように細長い建物が立っている。
20140600_07.JPG ▲(写真2)このコインランドリーも廃線跡に立つ。道路には斜めに面している
 鉄道路線が廃止になると、その路線は地図から消される。だが築堤部分や切り通しなど、地形に鉄道敷設の痕跡がある場合は、国土地理院の地形図などにもその痕跡地形が記されているため、線路跡を類推することができる。また廃線跡は、グリーンロードなどとして歩行者専用道、自転車専用道になることも多い。その場合も、市販の道路地図で容易に廃線跡を辿ることができる。一方、調布市内の京王線の廃線跡のように、線路跡に家がびっしりと立ってしまうと、通常の地図ではどこが線路だったか、まったく分からなくなる。
 この部分の京王線廃線跡に触れておこう。京王電鉄は、その前身の京王電気軌道によって、大正2年に笹塚~調布間が開通した。大正4年には新宿(新宿追分)まで延伸する。この時点では仙川~調布間は、主に甲州街道を路面電車の形で走ったり、現在とは甲州街道をはさんで反対側の林や畑の中を走ったりしていた。その後甲州街道の拡張や勾配緩和などのために、昭和2年に現在の地に線路を移設した。この旧路線区間はわずか14年の命だったわけである。
20140600_08.JPG ▲調布市立第七中学(地図1では左側地図外)の校内には、「元京王電車ここを通る」の碑が。右側の黄色い家部分へ線路は続いていた
 一帯は戦後の高度成長期に急速に住宅地となり、線路跡は土地の区画整理、造成で完全にその痕跡がなくなった場所が多い。写真1から2にかけての周辺だけが、区画整理を免れ、線路跡に忠実に家が建てられていった。
20140600_09.jpg ▲(地図1)調布市菊野台1丁目付近。中央付近を右上から左下へと続くのが京王線廃線跡。右下部分の大きな道が甲州街道。(掲出した地図は、居住者名を除いてあり、通常の『ゼンリン住宅地図』とは異なります。)
『住宅地図』は前述のように各家の形まで描かれている。線路跡に立つ家は、多くの場合細長い。そのため、区画整理がなされずに線路跡に家が建っていくと、地図1で見られるように周辺の道路とは関係なく細長い家が数珠つなぎのようになっていく。各家の形が記されている住宅地図でだけ、鮮明に分かる内容である。
 正確に言えば『住宅地図』のほか、パソコンなどでは、グーグルアースや国土地理院の「web電子国土2500」も、拡大していけば家の形まで分かる。だが、民家の名字や建物名まで載っているのは『住宅地図』だけである。住宅になった廃線跡は、廃線跡ぞいに道があるわけではないので、線路跡を辿ろうとしてもすぐに見失いそうになる。建物の名が載っている住宅地図が、現地を歩く際とくに威力を発揮する。
『住宅地図』は、市町村別の冊子として発行されているほか、スマホやタブレットで全国のものが見られる。コンビニでのプリントサービスもある(いずれも有料。ゼンリンのホームページ参照)。廃線跡を歩く時、とくに今は住宅地となった所では、住宅地図も参考にしてみることをおすすめしたい。

内田宗治著
『ゼンリン住宅地図と最新ネット地図の秘密』実業之日本社 定価(本体1600円+税)

2014年06月26日   自著を語る

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