「或る列車」について

 朝日新聞Web版7月29日付けにJR九州の新しい観光列車が来年夏頃から運転されるという記事が載りました。噂では聞いておりましたが、本格的に動き出したということでしょうか。

 今週はトーマス列車のことを2回書きましたが、トーマスが絵本から飛び出して現物になった例であるなら、JR九州の新しい観光列車は模型が原型、あるいは発想の原点ということになるのでしょうか。
 先日95歳で亡くなられた原信太郎さんが7年かけて製作したという九州鉄道の幻の豪華列車の模型を元に本物の車両が製造され、観光列車として運用するというのです。この発想にはびっくりしました。
 この九州鉄道が発注したという豪華列車については『日本鉄道旅行地図帳』シリーズでも2回取り上げました。いずれもその情報の元になったのは、昭和10年に発行された『鉄道趣味』誌に発表された「或る列車」という記事です。筆者は幾太郎というおそらくペンネームの方です。記事は3ページ、そのうち1ページは4両の車両を並べた写真で埋まっています。そもそもこの豪華列車を「或る列車」と名づけたのはこの機太郎さんの記事でした。
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 29日付け朝日新聞の記事とこの『鉄道趣味』誌の記事ではいくつかの相違点があります。朝日の記事はおそらく原鉄道模型博物館の取材で構成されているのだと思います。
 まず車両の発注先が違っています。朝日ではブリル社となっていますが、「或る列車」ではWason Manufacturing Company社です。これは現存の会社のようです。九州鉄道は車両を発注したものの、明治40年に買収国有化、車両は横浜に荷揚げされて、国有鉄道新橋工場で組み立てられたと記事にあります。さらに九州鉄道が夢見た豪華編成の列車として走ることなく、不遇な運命を辿りました。
 このあたりの経緯も朝日の記事とは違います。ただしその後研究が進んで、事実関係の解明が進んだのかも知れません。
 機太郎さんは最後に以下のような夢想を披露しています。アメリカン・ロコモーティブ製8900形を先頭に、

「先づ郵便手荷物車に続いてその2等車が3両、それに食堂車、1等寝台車、展望車の順で合計7両、そしてそれに同じアメリカン・ロコモティブ製、CC形マレー9750形機の補機で、旧本線の箱根を超えて東海道を快走させる、一寸こんな特急が我が国の鉄道発達史上にあってもよかったのではないでしょうか」

 同好の大先達も大いに妄想を膨らませた「或る列車」が現実に?!「ななつ星のJR九州」に大いに期待します。
 最後に「或る列車」の写真ページをご覧いただきます。
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編集部 田中比呂之(ひろし)

2014年07月31日   九州・沖縄

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