先日、産経新聞が面白い記事を配信しました。渋谷駅の再開発ビルの起工式にともない渋谷再開発の模型が公開されたが、その模型にハチ公の姿がないことをニュースにしたのです。取材記者の着眼に拍手を送ります。
ハチ公は渋谷のシンボルです。おそらく日本でもっとも有名な犬でしょう。模型を造った人はそれを忘れていましたか。私はまだ模型を見ていませんが、もし見る機会があればおそらく私もその模型にハチ公を探したと思います。
現在ハチ公の横には喫煙スペースがあり、時々そこで一服します。先日もそこで煙草を吸っている間に見ていると、記念撮影する人たちが次々に現れます。
記者はさっそくハチ公前広場の所有者である渋谷区の担当者に取材します。そして「渋谷の象徴なのでなくすことは絶対にしないが、工事中にどのようにして保存するかは未定、再設置場所も決まっていない。一時撤去するのか、位置を固定したまま再開発工事をするのか。開発事業者と話し合う」という証言を引き出しています。
こういう地道な取材が、あとになって生きてくることもあるでしょう。東京駅丸の内駅舎の前にあった鉄道の父井上勝像は、姿を消して久しいという例もあります。
ハチ公については『日本鉄道旅行歴史地図帳』5号で杉崎行恭さんに取材記事をお書きいただいたことがあります。ハチ公の向きが何度か変わり、場所も移動しているように思えたからでした。
この杉崎さんの記事によると、昭和9年に建立された像は西向きでした。この時はまだハチ公は存命中で、この像を見ながら飼い主を待っていたことになります。ちなみにハチ公は自分の銅像の除幕式に出席しています。この銅像は昭和19年に国有鉄道浜松工場で鋳つぶされました。
戦後昭和23年に再建されます。この時は北向きにお座りした姿でした。私が最初にハチ公を見たのは小学生か中学生だった昭和40年代で、この北向きの姿でしょう。
現在は東を向いています。平成元年の広場拡張の際に現在地に移動して今日に至っているということです。動物の銅像がこれだけ大事にされている例も珍しいでしょう。
さて渋谷駅周辺の再開発でハチ公前広場も大きく変わることが予想されます。しかしどんなに変わろうとも、ハチ公の処遇は多くの人が注目しています。関係者の皆さん、ハチ公を侮ってはいけません。
果たしてハチ公はどっちを向いて新しい渋谷を見つめるのか楽しみです。
編集部 田中比呂之(ひろし)