関東大震災では、激震に加え、東京、横浜、小田原で大火災が発生した。東京市内は３日間にわたり燃え続け、上野、両国、飯田町（現飯田橋付近）、神田、新橋、横浜など19駅が焼失した。また48の駅が倒壊または大破している（国有鉄道の事例）。

▲（左）上野駅も周辺からの猛火を受け全焼し、機関車と給水塔だけの姿に
　（右）美しい赤煉瓦駅舎だった新橋駅も、内部が全焼してしまった
　そんな中、鉄道員の決死的活動が各地で見られた。東京駅では神田方面から猛火が迫り、留置されていた客車が燃え出した。連結手は、燃える客車の方へ熱風を避けながら水をかぶり這いずるようにして迫り、無事な客車との連結をはずした。はずした客車は手押しや機関車で移動させた。機関手は移動させる際、火に煽られ髪の毛が焼けたともいう。海神奈川駅では、脱線した貨車に火薬が積まれていた。周囲には大火災が起きている。貨物掛は、それを海中に投与して難を避けた。
　大正13年６月７日、そうした鉄道員48名が效績賞を鉄道省から授与されている。
　表彰された方は、所属までは分かるのだが、どのような行動で表彰されたのか、その記録がもはや残されていないようで、分からない。たとえば表彰された一人である古宮由雄は、その身内の方（お嬢様）にお会いすることができ、関東大震災時での行動の一部を知ることができた。それ以外は、別な記録や記事と照合させることで、一部行動が判明したものについては、『関東大震災と鉄道』で紹介した。
▲古宮由雄さん（震災当時20歳）が鉄道大臣から手渡されたという関東大震災での效績賞の賞状。お嬢様に取材の際伺った話では、この時の賞金の一部で桐の箪笥を買ったことを母親からよく聞かされたという
　災害に対する記録は、被害規模の数字や被害内容の記録だけではなく、その時の人々の行動記録、また聞き取りによるその時の心理状態の記録が重要である。それらがまとまって、いわゆる災害時の行動指針、ソフト面での対応研究が進化する。
　もし以下の方々に心あたりある方がいましたら、編集部までご連絡ください。何らかの形で記事としてご紹介したいと思います。

連絡先
〒162−8711　東京都新宿区矢来町71　新潮社　日本鉄道旅行地図帳編集部
eki-cho▲shinchosha.co.jp（▲を@に変換してください）

　表彰された鉄道員の所属と姓名は、鉄道省の公式記録である『国有鉄道震災誌』によれば以下のとおりである。

表彰賞与
1、職員表彰規程第一条第二号に依り效績章を授与し並びに特別賞与金を給与したるもの
金　百　円
故新橋運輸事務所副参事　従七勲八　伊藤祐親
故錦糸町駅貨物掛　書記　内田本次
故国府津保線区 　技手　岩崎竹次
故国府津機関庫機関手　技手　尾崎道太郎

金　七十円
故国府津機関庫機関助手　雇　野谷隆殖
故安房北条駅電話交換手 雇　芳賀　光

金　百　円
監督局　属　廣川龍雄
東京駅助役　書記　折井九思郎
　　同　同　大原新三
東京駅操車掛　同　松下重直

金　百　円
東京機関庫機関手　技手　前島銀次郎
東京鉄道局庶務課　同　宮田島止
東京検車所助手　技手勲八　鈴木泰治

金　五十円
東京駅連結手　傭　小林米作
　　同　同　神保清佐

金　百　円
神奈川駅長　書記　川手　祐

金　七十円
海神奈川駅貨物掛　雇　尾坂二郎

金　百　円
鎌倉駅長　書記　大久保為二郎

金　七十円
東京鉄道局自動車運転手　雇　大石　博

金　百　円
東京鉄道局電気課通信掛　書記　上野粲造

金　七十円
東京鉄道局電気課通信掛　雇　高久豊次

２、特別賞与金のみを給与したもの
金　七十円
官房人事課　属　水谷亀三郎

金　七十円
官房文書課　雇　中村儀雄

金　五十円
官房文書課　雇　古宮由雄
工務局　同　大山陽之助
被服工場　技工　安部　新

金　百　円
省教習所嘱託　従六勲四　原田直吉
同　属　清水慶市

金　五十円
保険衛生試験所　小使　田村亀太郎

金　百　円
東京駅小荷物掛主任　書記　邨井勇次郎
東横浜駅長　書記正七勲六　吉岡重蔵
大磯駅長　同　勲八 影本虎三郎

金　七十円
新橋運輸事務所　雇 　田實重雄

金　百　円
亀戸駅長　書記従七勲七　松城秀樹

金　七十円
田端駅電話交換手　雇　大倉せん
赤羽発電所機関方　雇　鴻巣　勇

金　五十円
赤羽機関方心得　勲七　三浦留貞
赤羽機関方助手　菊地　浩

金　百　円
東京鉄道局庶務課　書記　信太雄三
同　同　小平米雄

金　七十円
東京鉄道局庶務課　雇　天野清治
東京鉄道局自動車運転手　雇　渡邊嘉男
　同　同　伊東義恭
　同　同　増田幸治郎

金　百　円
新橋駅長　書記従七勲八　畑瀬寅一
新橋運輸事務所　書記　鈴木壽三

金　七十円
東京駐在車掌　雇　原田清丸
　同　同　松江年一