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関東大震災と鉄道2014 第3話 〜関東大震災と東日本大震災〜内田宗治

 東日本大震災では列車の乗客乗務員の死亡事故はありませんでした。これは災害マニュアルがしっかりとしていたというより、現場の鉄道員の機転が危機を救った場面が多かったようです。実は関東大震災でも現場鉄道員の奮闘で危機を脱した例がいくつも報告されています。

『関東大震災と鉄道』を東日本大震災の翌年に上梓したところ、鉄道に従事する何人もの方々から関心を寄せていただいた一節がある。この一節をテーマにした講演の依頼も鉄道会社の労組からいただきもした。
 それは、1923年の関東大震災と2011年の東日本大震災、この約90年の間に、耐震構造などの土木技術、地震波が到達する前までに発生を感知して列車にブレーキをかける伝達などハード面は飛躍的に進歩した。一方、鉄道員や旅客に対し、地震発生時の咄嗟の判断やその後の行動というソフト面はまったく進まず、退歩さえしているようだと述べた部分である。
 ほんの数例だが、駅での様子だけに絞ってみてみよう。
 東日本大震災では、仙台駅での新幹線ホームの天井材が落下してきたことがよく知られている。ここでは、ホームに乗客がいなかったので、けが人は出なかった。水戸駅では、下り特急「フレッシュひたち29号」が発車した直後で、ホームに下車客が多くいた。『東日本大震災 証言集』東日本旅客鉄道編集・発行によれば、改札の係員がすぐさまコンコースへ誘導したが、そのとき水戸駅の駅名看板が屋根下から外れて地面に落下し、あと2~3mで乗客に直撃するところだったという。
20140901_03.jpg 20140901_04.JPG ▲(右)津波の後、火事にも襲われた陸中山田駅
20140901_05.jpg 20140901_06.jpg ▲(左)関東大震災時の茅ヶ崎駅。脱線した貨車が並ぶ中、駅や列車には避難民が殺到した
 (右)小田原駅。路盤が波打ち停車中の機関車や多くの車両が脱線した

 関東大震災では、東京駅の第3番ホームの屋根が、横に傾くようにして落下してきた。ホームにいた助役がホーム上で乗客に、「すぐに線路に飛び降りろ」と叫んで、一人のけが人も出さなかった。屋根から離れることを優先させたのである。 20140901_07.jpg▲東京駅第三番ホーム。写真右の荷物車両が停まるのはホーム北側の引き込み線。写真奥のホームでも屋根が落下している
 東日本大震災での常磐線富岡駅。大津津波警報が出される中、駅員は避難を促すが、キオスクで買い物をしたいという乗客がいた。買い物を止めて避難するように駅長がお願いするがどうしても聞き入れてもらえない。津波が遠くに見え始めてから「津波がきたぞ!」と叫び、150メートルほど離れた高台に逃げ、まさに危機一髪だったという(『東日本大震災 証言集』)。
 JR山田線宮古駅でも、大津波警報が発令したので、助役は駅員にお客様を連れてすぐに避難、と指示しながら、地震発生14分後の15時ちょうどに陸中山田駅長から「もうここはダメだから逃げる」、続いて釜石駅の助役からも「釜石も逃げるから」と緊迫した声で連絡された後に、数人の乗客を伴って避難している(『東日本大震災 証言集』)。
 関東大震災の事例に戻ると、たとえば東海道本線(現・御殿場線)の松田駅付近で脱線した貨物列車では、貨物が略奪に遭わないように、貨車に有刺鉄線をぐるぐる巻きにしたが、結局3日目に略奪にあった。鎌倉駅では逆に駅長独自の判断で、構内停車中の貨車内にあった米を、避難者に積極的に配る義挙を行う。
20140901_08.jpg▲東海道本線(現・御殿場線)下曽我~松田間で脱線した上り貨物列車。松田駅駅長は略奪を警戒し各貨車に鉄線を巻いて備えたが、結局夜間にほとんどが略奪されてしまった
 関東大震災時は震災時のマニュアルもなく、判断はまちまちである。東日本大震災では、地震マニュアルはあったが、個別のケースに対応できずほとんど役にたたなかった。
 今から考えると、上記の東日本大震災時の行動に反省点もある。決断が遅いと感じる事例も散見される。ただし、誌面の都合で書ききれないが、鉄道会社の人たちは、概して本当によく頑張っていたと思う。災害に備えるソフトの発達を望む。

○関東大震災 死者行方不明約10万5000人 東京周辺走行列車125本中、脱線列車27本、死亡事故列車3本
○東日本大震災 死者行方不明1万8498人 東北新幹線走行列車27本、東北地方太平洋側在来JR線、私鉄・第三セクター走行旅客列車20本、揺れによる脱線旅客列車0本、津波流失旅客列車5本、死亡事故列車0本

2014年09月01日   その他   タグ : 関東大震災

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