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『東海道新幹線 安全への道程』の圧倒的細部

 私が編集を担当した『東海道新幹線50周年 世界最速「車窓案内」』は、順調に売れています。10月1日が迫り、書店の鉄道コーナーには新幹線関連の書籍がたくさん並んでいます。日本が世界に誇る新幹線が50周年を迎えるのですから、ファンならずとも惹かれるものがあるのではないかと思います。

20140925_01.jpeg その中からお薦めしたい本をご紹介します。「鉄道ジャーナル」の読者の方であればご存知かと思いますが、長年同誌の巻末近くで「鉄道とともに50年」というタイトルの連載を執筆しておられたのが、齋藤雅男さんです。その齋藤さんの連載が、新書サイズにまとめられ刊行されました。
 新書サイズですが、608ページもあります。それでいて本体価格は1000円。同業の私としては「どういう原価計算なのだろう」と思ってしましました。連載時はときどき拝読しておりました。正直ちょっと読みにくいなと思っておりました。
 内容は齋藤雅男さんが昭和21年運輸省に入省してから昭和47年に国鉄を退職されるまでの、半生が描かれています。大阪鉄道管理局を皮切りに、地方と本社を行ったり来たりしながら、開業翌年から東海道新幹線車両部長となり、新幹線の「初期不良」と戦います。
 本書には情緒的なところがほとんどありません。ほとんどの記述が具体的です。ある程度鉄道の知識がないとおそらく読み通すのはつらいのではないかと思いますが、鉄道の基本的な知識がある人には興味を掻き立てられる記述が随所に登場します。文章は劇的に書かれているわけでもないのに、具体的事実で埋め尽くされた記述が本書全体に横溢する迫力につながっています。
 齋藤さんはいわゆる「メモ魔」です。私が最初に齋藤さんとご一緒させていただいたのは、平成8年の鉄道ジャーナル社主催満洲ツアーの折でした。乗車した貸切列車で写真でも撮ろうと最後尾に行くと、そこに齋藤さんがいてしきりにメモを取っていました。このツアーの間で何度もメモを取る姿を見ました。
 枕木、線路、バラスト、車両......なんでもメモされていました。本書を読むとしばしば会話が出てきますが、そういう会話もあとでメモをしておくのでしょう。
 本書の後半、全体の半分近くのページを占める東海道新幹線についての記述を読むと、初期不良ともいうべき事故が相次いで、その対応に追われる齋藤さんの姿が生き生きと伝わってきます。齋藤さんは話し好きで、話し出すと何時間もひとりでしゃべります。私も合計すると何十時間もお付き合いしています。その中で聞いた話もより具体的に書かれています。
「乗客死亡事故0」の新幹線も「初期不良」事故が相次いだようです。そこに関わっていたのが齋藤さんです。その様子はまさに新幹線に「魂」を入れる仕事でした。そして本書に貫かれている圧倒的な細部にもメモ魔の「魂」が宿っています。

編集部 田中比呂之(ひろし)

2014年09月25日   本の話   タグ : 東海道新幹線

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